3 情報収集
普段店にこもり切りのナナシが街中を歩けば、ナナシのことを知る住人たちが物珍しげに見てくるのはおかしなことでもなかった。
声をかけられるとそこに向かって適当に世間話をしてはゆっくりと街の中を進んでいく。
今日ルーグはロイと遊びに行くと言うので、ナナシがルーグの家まで食事を取りに行くことになっている。
ナナシもルーグ同様に街の中じゃ有名だったりするので、声をかけてくる人も多かったりする。鍛冶師などの1部の職人を除けばナナシはむしろ好意的に思われている。
「とりま、大将にでも聞きに行くか」
ルーグに教えたのがウォルバーグなのだし、何かを聞くのならまずはウォルバーグだと結論づけてナナシはそちらの方向に足を向けた。
ウォルバーグはナナシへの窓口になっているのが否めないのでその方がいいのではというのもある。
「あ、鍛冶師さん」
「よう、チェルシー。変な貴族がいんだって?」
「そーなんですよ。冒険者のことを聞いてくる人がいて……」
店に着いて世間話程度に話題を振ってみると店番をしているチェルシーは愚痴のようにこぼす。
客の情報は教えられないと言っても帰る気配はなくしつこく、しまいには自分は貴族なのになぜ従わないと喚き散らし、営業妨害だとチェルシーは腹ただしげに言う。
「冒険者よりタチが悪いですよ」
「でも大将が追い払ったんだろ。ここにいるのは客だけだってな」
「はい。他の店でもやってたみたいですけどね」
結局、他の店でも同じような追い払われ方をされたらしいが、そんなことをしていれば確かに変なやつと警戒されるのは仕方ないだろう。
職人街じゃ貴族だろうが冒険者だろうがただの客だ。自分たちの技術に誇りを持っているだけに客に媚びることはない。
そう話をしていると店の奥からウォルバーグがやってきた。チェルシーのなにやら楽しそうな話し声が聞こえてくるのでさぼってないかの確認にきたらしい。
「喋ってばかりいねぇで……お前か」
「昨日ルーグから聞いたから、詳しいこと聞きに来た」
店先にいるのがナナシとわかると露骨な顔をしてウォルバーグはチェルシーへの注意をやめ、ナナシはそんなウォルバーグに対してようと楽しそうに手を軽く挙げた。
ここじゃなんだとウォルバーグはナナシを店の奥にいれると、すぐに終わる話じゃないと手の相手いるやつに飲み物を持ってくるよう指示を出した。
「で、大将から見てもヤバそうなわけか?」
ウォルバーグの対面のソファにあぐらをかいて座ったナナシは、店の奥に案内されたことでの確信を口にする。
そうじゃなきゃあの場で話せばいいだけだ。
「いや、そうじゃない」
「つーと、相手の目的に目星がついたと」
「ああ、あくまでそう見えただけがな。俺の目には黄昏の歌を探ってるように見えた」
ナナシの目つきが一瞬鋭くなる。
黄昏の歌はフィリーが所属する冒険者パーティーだ。
「なるほど。こりゃなんかあったら一大事だ」
「だろ。それを抜きにしてもあの嬢ちゃんになにかあったら街がめちゃくちゃになっちまう」
フィリーは侯爵家の養女だ。
そうなった経緯は省くとして、家族に溺愛されているだけにフィリーの身になにかがあれば侯爵家が全力で動きかねない。
それだけならいいが、もしナナシが怒りに任せて暴れでもしたら街が壊滅してもおかしくはないとウォルバーグは感じている。
「心配すんなって、オレは人間でしかねぇんだから」
「ドラゴンに育てられたからってドラゴンになるわけでもねぇのはわかってる」
しかしウォルバーグはスッキリとしない顔をしている。
本人は手負いだったからと特効手段があるからと言うが、下位ドラゴンを一撃で屠っているだけに万が一が脳裏を掠めると安心は出来ない。
まぁ、ナナシが感情任せに動くとはウォルバーグも思ってないが。
「ま、そうなら手紙でも送っとくか。文句を言われるのも面倒だしぃ」
「そーしてくれ。こっちは領主に声をかけておく」
大まかな方向性が決まりナナシは店を後にすると、冒険者ギルドに立ち寄った。
フィリーの実家に手紙を出すためだ。レインのところでやったようなやり方はさすがに良くないので、ギルドのハリツバメを借りないとナナシからは届けられない。
ナナシはギルドでペンと紙を借りて、職人街で起きていることを綴ると自由にやらせてもらうと文の終わりに付け足すと、ハリツバメに持たせて手紙を送った。
「サンキュー、マスター」
「日頃のあなたからの恩恵を思えば安すぎる対価ですよ」
ギルドマスターは大したことではないと言って、今後とも良きお付き合いをさせて頂ければとナナシに返した。
珍しい素材など、冒険者ギルドは時折ナナシに融通してもらうこともある。
ナナシはどういうわけか連合国の住民と親しいようで、連合国でしか入手出来ない素材などナナシのおかげで手に入る。
用事も済んだとナナシが自分の店に戻れば、店の中にルーグとロイがいた。
ルーグは鍵の隠し場所を知っているし、なんなら内側から鍵を開けることも出来るので不思議なことは何もない。
結局、遊ぶ場所も少ないのでいつもの場所に落ち着いたらしい。ついで言えば、ギルベルトやオーウェンが持ち込んだボードゲームなどもあるので遊びにも困らない。
持ち込まれたボードゲーム
チェスなどの戦略的なゲームがほとんどだが、すごろくなどもある。
ただ、持ってきたものの使われていないので奥の方にしまわれていたり、部屋の隅で埃をかぶっていたりする。
ギルベルトは半分宣伝のため、オーウェンはルーグが退屈しないようにと持ち込んだ模様。




