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全ては鍛冶屋で起きている!  作者: メグル
フィリー編
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1 久々の客

 元々開店休業状態の店は、1ヶ月休んだところで客足が増えることも減ることもなく通常運転だ。


 つまり、客は来ない。


 それどころかレインのところへ行ってから1ヶ月過ぎようとしているのだが来店客はいなかった。

 時折、ウォルバーグが幻影の森の素材のことで相談に来ることはあったがそれ以外はルーグが毎日弁当を届けにくるくらいで変わり映えがなかった。


 まぁナナシは持ち帰った素材でなにやら作って遊んでいたので退屈していない。ついで言えば、ルーグもナナシから色々教えてもらったり店の整理をやり始めたので退屈はしていなかった。ほぼ片付けられてないので大した効果もないが。


「こんにちは」


 久々に客が来たようだ。


「あ、ロイ!」


 細々したものを棚に並べていたルーグはロイの姿を認めて嬉しいそうな声をあげた。最近はナナシと2人だけだったので尚のこと嬉しい。


「ルーグ、久しぶり。今日は修理をお願いしに来たんだけど」

「うん、分かった。ちょっと待ってて」


 ルーグは工房に続く扉を開くとナナシを大きな声で呼んだ。鍛治をしているわけじゃなく探し物をしているだけなのでこれで十分だ。


「お、久々に鍛冶屋として運営出来んのか」

「だね。戻ってきてから誰も来なかったから」

「え?」


 これが通常運転なのでナナシもルーグも至極当然のように言っているが、それを耳にしたロイからすると驚きが隠せない。

 1ヶ月ほど留守にすると言ってからさらに1ヶ月は過ぎているのだが。


「今回は手入れか修理、それとも新調か」

「手入れです」

「そうか」


 ナナシはロイから装備一式と今回の素材と預かりボックスの中から必要な素材を預かるとさっさと工房に行ってしまった。久々の仕事に張り切っているようだ。


「そういえばロイってソロでやってくつもりなの?」


 新米冒険者とは言えど、ネームドグリフォンを討伐した1人なわけで冒険者パーティーから声がかかってもおかしくない、というかそういう誘いがあったと耳にしている。


「あ、うん。声はかけてもらったんだけど僕の実力で入れるほど(正当な評価)じゃないから断ったんだ。たまに臨時パーティーとして学ばせてはもらってるけど」


 以前ナナシが紹介した冒険者たちなどが1人でやってるロイに声をかけてくれると言う。


 まだ冒険者としてはひよっことして見られるロイは駆け足でフィリーたちに学んだために色々と足らないものも多い。そのため、その穴を埋めるように臨時パーティーとして冒険者たちはロイに声をかけているようだ。


 もっとも、純粋に荷物を少しでも多く持ち帰りたいための荷物持ち要員と言う理由もあるのだが、何よりロイは純粋で素直なので先輩冒険者も色々教えたくなるようだ。


「それに僕の目的を考えるとその方がいいのかなって」

「それはあるかも。パーティーを組んじゃうと自由に動けなくはなっちゃうし」


 あくまでロイの目的は祖父の形見である剣を直すことなので、ソロの方がいいのだろう。実力や連携の腕を上げておけば、そのモンスターを討伐に行くパーティーに臨時で加入しやすくなる。


「あ、そうだ。ルーグたちがいない間に修理に来てルーグのお父さんに戦い方を教えてもらったんだ」

「父さんに?」

「うん」


 ルーグは一瞬キョトンとしたが驚くことはないと思い返して、ああと声を出した。

 そういえば家でそんなことを言っていたと、詳しくは教えてはくれなかったがロイだとすると理由も分かる。ルーグを通じてナナシの耳に入るのが嫌だったのだろう。


「冒険者目線のアドバイスもくれて分かりやすかったよ」

「父さん、若い頃に数年間だけ冒険者について回ってたんだって。鍛冶場で物言うだけの鍛冶師になりたくないって現場を見るために」

「そうだったんだ」


 ロイがウォルバーグを褒めるとルーグがそんなことを教えてくれる。鍛冶師として同行しただけと冒険者登録はしていないので正確な実力は分からないらしいと言ったあとルーグは呆れたようにして続けた。


「そうじゃなくてもいつも言ってるけどね、鍛冶師は作り出したものを理解してやれなくてどうするって」


 それが一流というものだとウォルバーグは口癖のように言っている。事実、鍛冶師だけじゃなく魔道具の職人など体力に差はあれど自分の作った道具を使わせると並の冒険者でも手こずるほどだ。


 たまに職人街でのされた冒険者が転がっているのはそういうことで、それを見て盗みを働くやつなどはいないが同業からは嘲笑の的になったりする。


 ルーグからそれらを聞いたロイは乾いた笑いを浮かべた。なんと言っていいか分からないが、ひとまずここの鍛冶師を怒らせないようにしようと心に決めながら。


 雑談をしているとナナシが工房から出てくる。

 手入れにかかる日数を伝え忘れていた事を思い出したらしい。あと、研石をこっちの部屋に置きっぱなしだったと取りに来た。


「明日の昼にゃ終わらせる。んで、ロイお前、戦い方変わったか?」

「父さんが教えたみたいだよ」

「あー、なるほど。大将の世話焼きな」


 ナナシが武器の磨耗具合から持った疑問はすぐに解消された。驚くこともなく、すんなりと納得していた。


 留守中にロイがウォルバーグの店に訪れていたことは報告されていたが、指導については知らされてない。報告する必要もないのでいいのだが、まさか教えたのはウォルバーグ(鍛冶師)だとは。


「ま、下手な冒険者よかいいってもんだな」

「そういうものですか」

「大将に関してはどっちも出来るかんな。冒険者も鍛冶師も」


 大将の腕は信じていいぞと言い残すとナナシは砥石をもって工房に戻って行った。

客足というか生活費?


1ヶ月に1人とかもざらにある。


この店の常連は冒険者としてレベルの高い人が多いので技術料だけでもかなりの値段になるので1人でも来れば当分の生活費は稼げる。


もっとも放浪時代の貯蓄などがあるため困ることもなく、困っても自分で素材を狩り売ればいいだけなのでどうにかなる。

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