20 無事に戻ってきて
ドラゴンがあまり人里に近づいて余計な騒ぎになっても面倒なので、職人街の近くで下ろしてもらいあとは徒歩で街まで向かった。
近くといっても一泊は野宿しなければならない距離だが。
「あー、なんか帰ってきたって感じがするわ」
「そうだね。あそこは別の世界みたいだったから」
食材を鍋に入れながらガラドがシーナに返す。
幻影の森からすでに見慣れないモンスターだらけで、しかも別格の強さを持っていた。その上幻影が行く手を阻む。
たどり着けば存在するが幻に近い最古の龍がいて、その辺りの環境も異常だったりともはや別の世界にいたようであったというガラドの言葉も頷ける。
「レインさんには会いたいけど、あの森は行きたくない」
「ええ、そもそも彼がいなければたどり着けないでしょうね」
帰りのようにドラゴンの迎えでもあるなら別だが、そうでなければ幻影の森に足を踏み入れることすら躊躇うだろう。
「俺がいたとこで魔力雨降ったら終わりだぞ。ドラゴンのウロコでもなきゃ防ぐ手立てがねぇからな」
「あの怖い雨か」
「そ、あそこのモンスターは多少なりとも耐性あっけど、人間の魔力じゃ押し負ける」
細かいことが知りたきゃシーナに聞けとナナシは丸投げすると、張り終えたばかりのテントにルーグようのベッドを置きに向かった。
なくてもいいような気もするがせっかくなのでということらしい。
夕食後はルーグを除く全員で見張りの順番を決めて各自自由に過ごした。
翌日、ナナシたちは約1ヶ月ぶりの職人街に戻ってきた。
フィリーたちとは中に入ってすぐに別れた。宿に荷物などを置きに行くようだ。鍛冶屋には明日行くとのこと。
ナナシはルーグと一緒にまずはウォルバーグのいる鍛冶屋に向かった。寄らずにルーグの家に行っても良かったのだが、まぁそういうルートもあるので帰ってきたことを知らせるために顔だけでもだしておく。
「父さん、ただいま!」
「おかえり、ルーグ。嬉しそうな顔をしやがって」
ウォルバーグの店に行けば、何故かウォルバーグが店番をしていた。そろそろルーグが帰ってくると知った従業員たちがウォルバーグに気を使ったらしい。
「大将、詳しい話は家でってことで。とりあえず、無事帰ってきたことだけ伝えとく」
「おう」
「また後でね、父さん」
ウォルバーグの店を出たナナシたちはそのままルーグの自宅に向かった。
ルーグの病気のことなど人前で話すべきものじゃないものもあるし、ウォルバーグへの土産という名のお礼も大っぴらに人の多いとこで出さない方がいいだろう。これは初めて素材を売りにいった時に経験済みだ。
ルーグの母は無事に2人とフィリーたちが帰ってきたことを知って穏やかに笑った。ナナシがいるので安心していたといってもやはり純粋な心配はする。
「母さん、父さんの使ってないマジックバックってある?」
「そうねえ……」
母に持ち帰った野菜はちょっと量が多く、冷蔵庫に入り切る量ではない。かと言ってそのまま入れるのも無理があるほど大きいし、そのまま保管するのも大変だ。
なのでルーグは仮置き場のために、昔ウォルバーグが使っていたというマジックバックがあるか聞いたのだが、ナナシは必要ないと言う。
「いいぞ、ルーグ。お前に持たせたやつ使うから」
「これ?」
「茶葉持ってくのに作っただけだし」
急拵えでそこまで長く使えるものじゃないが、しばらくの間の保管庫代わりなら十分だと言う。普通はマジックバックの貸し出しすら人は嫌がるのだが、ナナシは執着心がないようで簡単に貸し出す。ナナシ曰く、壊れたら作り直せばいいだけらしい。
見たこともないほど巨大な野菜にルーグの母はたいそう喜んで腕がなるわと嬉しそうにして、すぐにじゃがいもがフライドポテトに加工された。
それをつまみながら、ルーグが旅の話を母にしているとウォルバーグが帰ってきた。従業員とたまたま店の様子を見に来た前鍛治長に今日はさっさと帰れと追い出されたらしい。
「じゃ、まずは診てもらったところ、ルーグは問題なしだってよ。気をつけるのは変わりねぇけどな」
「そうか、大丈夫なのか」
ウォルバーグはほっと息を吐いた。ナナシがルーグの魔力欠乏症を治してはいたが、しっかりと大丈夫だと報告がくるとなおのこと安心する。
「ありがとうね。危険を犯してまで、フィリーちゃんたちにもお礼しなくちゃ」
ナナシがルーグをドラゴンの下へ連れていきたかった理由に改めて気がついたルーグの母は、ルーグのことを安堵しながらナナシに労いの言葉をかける。
それからウォルバーグはロイが1度店に来たことを告げ、ナナシはマジックバックを机上に乗せて手を突っ込む。
「そうか。代理の駄賃が……あれ、どこいった?」
「もーなんでもまとめて突っ込むから」
ナナシは自分のマジックバックをゴソゴソと漁って目当てのものを引っ張り出すが、さっきの野菜と違って似たようなものを多く入っているせいか探し出すのも骨が折れる。
目当てのものを探し出したナナシは床の空いているスペースにだしていく。
あまり名を知られていない幻影の森のモンスターの素材や、あの森の異様な強さのモンスターの素材、それと種類の違うドラゴンのウロコを3枚ほど。
「………………」
「まだ足りないってか、しょーがねぇな」
「――違ぇ!」
大将は欲張りだとマジックバックからまだ何かを取り出そうとするナナシにウォルバーグはツッコむのだった。
ドラゴンの住処に向かうのはわかっていたが、こうも高ランク素材ばかりが並べられると驚きよりも呆れが勝る。
ナナシが持ち帰った素材類
人が足を踏み入れない場所だけに見慣れないものも多い。
しかしそのどれもが高ランク素材に分類される。
ドラゴンのウロコが複数並ぶなど、ナナシ以外の人間が見ることはなかっただろうと推測される。




