11 こいつがそうだけど
「きゃぁぁあぁぁぁぁ」
フィリーの放った風魔法に巻き込まれ流されてシーナが悲鳴をあげた。
あまりにも速度が速すぎるのだ。周りの景色すら捉えられないほどで移動遊園地のジェットコースターなんて足元に及ばないくらいに。
アルゼルは酔いか恐怖か分からないが青白い顔になっているし、フィリーも頭を両手で押さえて身を縮めて、ガラドは鎧で表情は分からないが盾を抱えているあたり怯えてはいるようだ。
ルーグは鍛冶師のことをぎゅっと掴んで離れないように必死で、鍛冶師はそんなルーグを片手でしっかり抱え空いた手で魔法の微調整をしていた。
――そして鍛冶師たちは開けた空の下巨大な白っぽい岩に激突した。
幸い防御魔法の重ねがけをしていたのでぶつかった音こそ大きいが衝撃はなく、被害はなかった。
無事にたどり着いたのはいいがフィリーたちはこのろくでもない移動方法のショックから立ち直るまでに時間がかかりそうなので、鍛冶師はひとまず置くことにする。
ルーグはガタガタと震えて鍛冶師にくっついたままだが、鍛冶師といる分まだフィリーたちよりかは余裕がある。
「よう、レイン」
鍛冶師は巨大な岩をペチペチと叩きながら声をかけ、すると頭上から声が降ってくる。
「もう帰って来たのか。しかし、客人を連れてくるとは……」
「お前に会いたいって言うから連れてきた。ってそれどころじゃなくて、雨が降るんだよ!」
「一大事であるな」
岩が揺れる。
すると視界いっぱいに広がっていた青空が何かに防がれ、代わりに重なった円盤のようなものが視界いっぱいに広がった。
急に影が出来たことで放心状態から帰ってきたフィリーたちは、状況の把握をしようと影から出ようとして鍛冶師の鋭い声が飛んでくる。
「動くな!そこから出んなよ」
「え?」
――カン。
上からカンカンと音が鳴りだし、雨のようなザァーと音が聞こえてくる。雨くらいで大げさだと口を開こうとして、地面を見た瞬間フィリーたちの血の気が引いたのが分かった。
地面には白い針のようなものが突き刺さっていて、岩に激突した衝撃で転がり落ちたのだろうアルゼルの水筒にも刺さっていて、開いた穴から水がこぼれ地面に染みを作っていた。
「いやー、間に合ってよかった。意外と行けるもんだな」
「なによ、これ?」
鍛冶師は呑気に間に合ったと言っているがフィリーたちはちょっと納得のいかないところもある。急がせた理由は分かったが、この雨のような危険なものはなんだと視線が鍛冶師に訴えている。
「魔力雨」
当然のように言われたが、めったに起こる現象ではない。魔力磁場のある場所でもさらに特殊な現象だ。
シーナはありえない話ではないと納得し、アルゼルは帝国が攻めて来れない最大の理由と位置づけた。
そんなことは二の次とフィリーはキョロキョロと辺りを見回す。
「ここが目的地?」
「そうだぞ」
「それであんたを強くした人はどこにいるのよ」
鍛冶師は先程大きく揺れた岩に手を当てると笑った。
「こいつがそうだけど」
「えーと……」
横も見上げても重なった円盤しか見当たらない。岩にしては違和感を覚えるが拡大されすぎて全体像が掴めない。
「最古の龍なんだよね」
「そ、こいつがレイン。今は傘代わりになってくれてんだよ」
ルーグがつぶやくように鍛冶師に言って、鍛冶師は頷いた。ルーグには何度か話したことがあるのでしっている。
「へ?」
「最古の龍ってあの?」
「ドラゴンの始祖とも言われる……」
唖然とするフィリーたちとは裏腹に鍛冶師はオーウェンも確かそんなこと言ってたなと頭をかいていて、そんな大層なものでもないと言い切った。
いわゆる上位ドラゴン自体出会うことだけでも珍しいのだが、鍛冶師からするとそうでもないようだ。
「まずは荷物置きに行くか。洞窟の中入ってくれ」
「うん」
レインの翼の先端は洞窟に入っていて、魔力雨に打たれることなく洞窟に入れる。
少し進んだところに人が1人余裕で通れるような小さな穴があり、中に入ると広い空間が広がっていた。机やイスなどの家具などが置かれていて居住空間だったのが窺える。
「適当置いてくれ。部屋はいくつかあっから好きにつかっていい」
荷物を置いたフィリーたちは洞窟の入口にでて、レインと対面をする。
大きすぎて全体は見えないが、顔を見たことでしっかりとドラゴンだと言うのが分かる。ウロコは白っぽいが時折、光の加減で7色に揺らいで見える。
「3年ほどで帰ってくるとは、人の世に馴染めず帰ってきたか?」
「相変わらず時間の感覚がおかしいんだよ、3年じゃなくて10年だっての」
「そうであったか。しかし、大した差でもなかろう」
ドラゴンにはそうだろうなと突っ込んだ鍛冶師はまぁいいとフィリーたちの紹介を始めた。
紹介と言っても名前だけ伝えて、あとはレインに会いたいからという雑なものだったが鍛冶師はレインにやる必要もないのだからいいのだと面倒そうに言った。
「で、こいつが俺を育ててくれた奴。俺はレインって呼んでる」
これまた簡単すぎる紹介だが、ドラゴンと言うだけで十分だろうということらしい。
エルダードラゴン
虹色に輝くウロコを持つドラゴン。
ドラゴンの中でもトップクラスで目撃例が少なく、存在はもはや物語の中でしか語られない幻の生き物レベル。
どうやら存在していたようだ。




