12 圧倒的存在感
鍛冶師を鍛えたのは7色に輝くウロウロを持った最古のドラゴンだった。
存在しないとまで言われるドラゴンを前にフィリーたちは声を出すことが出来なかった。驚きもあるが、なによりその荘厳さに圧倒されたと言うべきかもしれない。
ドラゴンにはある種の神々しさがあるから。
そんなことお構いなしの鍛冶師は気楽なもので、まるで友人に接するような気軽さでエルダードラゴンと会話をしている。
鍛冶師のそばにいるルーグは緊張した面持ちで鍛冶師の影に隠れながらじっとエルダードラゴンを好奇心に満ちた目で見つめていた。
「しかし、ナナシが子を連れてくるとは。無事に人の世に馴染めておるようだな」
「いや違ぇよ。こいつは世話になってる家の子供。つーか分かってて言ってんだろ、レイン」
開口一番に言われた言葉を鍛冶師は即座に否定する。というか、レインは人の記憶を読み取れるので最初から分かっているはずなのだが。
「ほほ。分かっておってもやはりナナシから直接聞きたいものであろ」
「そーかよ」
悪びれる様子もなくレインは笑い、鍛冶師は呆れるようにため息を吐いた。
レインはいつもこうだ。
記憶を読み取って全部知ってるくせに、当人の口からそれを聞きたがる。まぁ別にいいのだが。
「それはあとだな。俺は飯の調達に行ってくる。フィーたちのことは頼んだ。心身ともにすり減ってるからよろしく」
「あいわかった」
ちょっと行ってくると鍛冶師は洞窟を出て行こうとしてルーグは焦って鍛冶師の服を掴んで引き止める。まだ雨は降っているのだ。
「ちょ、まだ降ってるじゃん!それに……」
「俺なら大丈夫だから心配すんな。レインと一緒にフィーたちのことは任せた」
なんの問題もないと鍛冶師は言って、ルーグの手が緩むとレインにルーグが外に出ないようにだけ頼んで洞窟に出ていった。
「大丈夫かな、あいつ」
「雨のことなら心配せずともよい。あやつは防ぐ術を持っておる」
ルーグはその場に立ち尽くして心配そうに鍛冶師が出て行った方向を見つめていて、レインはそんな顔をしなくていいと声をかけた。
「あ、と、うん。そんな無謀なやつじゃないのは知ってる、ます。ただ、ここに来るまでに無茶してるから」
鍛冶師があまりにも変わらなすぎてルーグもついその調子でレインに返してしまい、慌ててルーグは切り替える。
それから、もう1つの心配事を口にした。
「やはりか、花の蜜を取りに向かったのであろ。あれには魔力を安定させる効果がある」
「それならいいんだけど」
レインは格好つけよってとカラカラと笑って、ずっと立ち尽くしたままのフィリーたちをどうするかとルーグに相談を持ちかけた。
「あ、あーと、どうしよう。とりあえずは……」
フィリーたちの近くまで行ったルーグはポンポンとフィリーたちを叩いて我に返して回る。トレーで叩いて回る方が確実なのだが用意がなく、フィリーたちにやるにはルーグもちょっと躊躇いがある。
「……ルーグ?」
「うん、そうだよ」
最初に復帰したフィリーに状況を説明しながら、ルーグは隣にいるアルゼルを叩いて我に返す。あまりに反応がないので段々と力を込めて叩くが手が痛い。このまま放置してもいいかとか一瞬思ってしまう。
「申し訳ありません。ドラゴンなど初めてお会いしたものでして」
「信じられないわよね。現実にいるなんて」
「しばらくお世話になります」
「……ドラゴンだったんだ」
それぞれが反応をして、レインはばさりと1度翼を広げると畳んで身を低くする。
「歓迎しよう、客人たちよ。ここまで来るのに疲れたであろう。今日はゆっくりと休むがいい」
「はい、ありがとうございます」
レインの言葉に甘え洞窟の部屋に戻ったフィリーたちは、部屋に入った瞬間地面に倒れ込んだ。
何せ疲労困憊、気力だけで立っていたようなものだったから限界も限界だった。ラストの方は鍛冶師がほぼ1人で進んだとはいえ、あの魔法の移動手段で回復したエネルギーはゴリゴリと削られたし。
「オレはなにするかな。何故か埃積もってないし」
ずっと使われていないと鍛冶師は言っていたのだが、洞窟内の部屋は掃除が行き届いているようで埃はなく今この瞬間も人が暮らしていると言っても信じられるほどだ。
手持ち無沙汰のルーグはちょこんと端に座って、チラチラとレインを見ていた。
会いたいと言って連れてきてもらったわけだが、なんとなく1人でレインのところへ行くのはちょっと怖い。たぶん人見知りに近いのだろう。
「童、ルーグと言ったか」
「は、はい!」
突然レインに話しかけられて肩を跳ねさせたルーグは部屋から出て洞窟の入り口に向かった。雨はもう止んでいた。
「そうかしこまらずと良い。あやつは元からああであったぞ」
「それはまた特別な気が……」
鍛冶師の豪胆さに呆れたルーグは乾いた笑いを浮かべる。どこにいても、相手が誰であれ鍛冶師は何一つ変わらないようだ。
「あやつ、次来る時は茶を持ってくると言っておったのだが何か聞いておらぬか?」
「え?えーと、ある。持ってきてます」
レイン用だとルーグは鍛冶師から小さなマジックバックを持たされていた。バックの中身はほぼ限界量まで茶葉が突っ込まれている。鍛冶師はあいつに合わせると金が飛ぶとか嘆いていた。
それをルーグが持ってくるとレインは淹れかたを教えてくれるようルーグに頼んだ。
ドラゴンサイズは大きさが大きさだけに人に任せるわけにもいかないのだ。
ルーグは自分たち用のお茶を淹れながらレインに説明をして、鍛冶師が戻ってくるのを待った。
ルーグのマジックバック
鍛冶師が作ったもの。
専門の職人もいるのだが値段がかなり高いので鍛冶師は劣化版を自分で作る。
作ろうと思えばまともなのもつくれるらしいが面倒がってやることはない。
ちなみに道中に用意したお茶とは別もの。




