10 こうなりゃ強行突破
幻影の森に入り約3週間が過ぎ、4週目に入りそうだがまだ目的地まではたどり着かない。
鍛冶師が言うには5割ほどを過ぎた頃だと言う。
一体でも手こずるモンスターの襲撃も多く、襲いかかる幻影と鬱蒼とした森は精神を削っていき、思うように進めない。
休憩時や深夜などの見張りは全て鍛冶師が請け負ってはいるが、それでもフィリーたちは体力的精神的にも疲弊しきっていてかなりギリギリだ。
それでもなんとか食らいついているのは一重に諦めたくないと言う根性論のようなものからだろう。
「……ちょっとまずいか」
空を見上げた鍛冶師が呟いた。
しかし、木々の隙間から見える空は青々していて雲1つなく晴天そのもので鍛冶師の言葉と繋がらない。
「どうしたの?」
「お前ら、荷物すぐ片付けろ」
なんの説明もなく鍛冶師が言い鍛冶師は自分の荷物をバックに入れ始め、シーナは理由くらい説明しなさいよと食ってかかったが止まって説明する時間も惜しいと一蹴された。
「ガラド、ルーグを頼んだ。飛ばすけどしっかりついてこいよ」
「え、ちょっと」
「……雨が降るんだよ」
鍛冶師が呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。
ルーグをガラドが背に乗せると、鍛冶師は両手に7色に揺らぐナイフを持つと先頭に立って進み始めた。
悪路を早足の速度で進む鍛冶師にフィリーたちは必死について行く。聞きたいことは多いがとてもじゃないが疲れが溜まった身体にこの速度で話すこともきつい。
「シーナ、魔力の節約はしなくていい。アルゼルも適宜使え。フィーは……うち漏らしをよろしく」
「うん。分かった」
「わかっ、たわ」
鍛冶師はシーナとアルゼルに指示を出す。シーナたちを戦わせる予定はないのでそこまで温存する必要もない。フィリーに関しては言うことはないのだが気を使った形だ。
モンスターを倒す必要がなければ余裕が出来る。一日中とはいかないが幻影を解く魔法が多く使えるとすぐに使う。鍛冶師はいいが自分たちが進むには幻影があると難しい。
「ったく、お前らのボスはもっと賢かったぞ」
次から次へとやってくるモンスターを斬り伏せながら鍛冶師はモンスターに対しため息を吐いた。
長年この森で暮らしてきただけあって、盛りのモンスターとの戦闘は鍛冶師にとって難しいことじゃないらしい。手の内がわかるからこそあまり手こずることなく倒せる。
フィリーたちに任せて進んでいたとき比べるとかなり速い。鍛冶師自身飛ばすと言っていただけある。
しばらくして休憩しないのも効率が落ちると少しの時間休みをとる。
呼吸を整えるだけでも精一杯のフィリーたちは木に寄りかかり少しでも体力を回復させる。
ルーグは鍛冶師のマジックバックからコップと水を取り出すとフィリーたちに配ってまわる。完全な足手まといではあるが、これくらいなら出来る。
「はい、お水」
「サンキュー、ルーグ。体調は大丈夫か?」
水を受け取った鍛冶師はルーグにそう尋ねる。
今回の旅で1番の懸念材料であるため十分注意はしているが、目視だけでは分からないこともある。
「平気、ずっとおんぶされてるだけだしさ」
「ならいいけどな」
「オレはむしろ――」
鍛冶師の方が心配だとルーグは鍛冶師をじっと見る。同じ魔力の循環異常をもつだけに心配はある。
いくらフィリーたちがほとんど戦っていたとはいえ、今は鍛冶師1人で戦っているわけだし進む速度はかなり速いのだ。
「あれ、見てるだけで痛いから」
「経験者は想像だけでも辛いってか」
「そりゃあね。出来るだけ味わいたくないでしょ、あの苦しさは」
思い出すだけでも身震いしてしまうほどの苦しさだ。それを知っているだけにルーグは心配がある。
「ま、あと2日くらいならどうにかなんだろ。俺は意外と丈夫だかんな」
「そんな適当に……」
ルーグの頭をぐしゃぐしゃと撫でた鍛冶師は、呼吸が整ったらしいフィリーたちをみて休憩を切り上げてまた先に進む。
そんな調子で日々が過ぎていく。
夜の見張りに関しては、音のなる罠を設置して鍛冶師は眠っていた。一応、テントの外にはいたが。
鍛冶師が先頭になって3日目。
朝から頃から急激に襲ってくるモンスターの数が減ってきた。モンスターの気配は感じるのだがおおよそ挑んでくる感じはない。
「何か変じゃない?」
「そうよね。モンスターの数が減ったわね」
「異常事態でしょうか」
少しは元気を取り戻したフィリーたちも異変に気がついてそう口にして、武器に手をかける。
よくあるパターンの1つに、その先に非常に強力なモンスターがいて他のモンスターが息を潜めているというのがあるからだ。
「あー、もう余裕がねぇ!」
誰にという訳でもなく大きな声を出した鍛冶師はマジックバックから魔力回復薬を取り出すとルーグを除いた全員に渡した。
焦った様子を見せる鍛冶師はポーションをすぐに飲むように言うとそれぞれに指示を出し始めた。
「ルーグはまた俺が請け負うとして。シーナ、アルゼル、ありったけの防御魔法を全員にかけろ。で、フィーは合図と同時に全員を巻き込んでこの方向に全力の風魔法を放て」
「ちょっ――」
なにやら不穏な指示にシーナが口を開くが鍛冶師は説明している暇すら惜しいと切ってガラドに指示を出す。
「時間がねぇ。とにかくやってくれ。ガラドはフィーの魔法を囲うようにシールドを頼んだ。飛び出し防止だかんな」
鍛冶師の言うことならばとフィリーはすぐに魔法を放つ準備を始め、案内人の様子やフィリーがやる気なのでひとまずシーナたちも指示に従うことにする。
シーナ、アルゼルが魔法をかけ終えると鍛冶師はルーグを抱きかかえてフィリーに合図を出した。
――瞬間、浮遊感に襲われ目にも止まらぬ速さ飛ばされていき、大きな岩に激突したのだった。
魔法のシールド
一般的に使われるのは透明な壁を出して攻撃を防ぐもので、他のシールドと比べると耐久性は低めだがどんな形にも出来るため汎用性が高い。
鍛冶師がガラドに指示したのはこのシールド。
シールドは他にも魔法を跳ね返すものや、衝撃を吸収してそれを放つことが出来るものなどもある。




