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全ては鍛冶屋で起きている!  作者: メグル
技術交流編
158/161

11 今日はナナシのところへ

「え、それではお客さんは滅多に?」


 驚いたふうに言ったのは羊の獣人であるトーチカだ。


 今日は交流会はお休みで、獣人たちはナナシの店に来ていた。


 ナナシがむかし連合国に滞在していた際の鍛治の腕を思えば、繁盛しているものだとばかり考えていたようで、基本いつでも暇しているというのは驚きのようだ。


「最後に来たのはいつだったか」

「……確かオーウェンさんだったよね」


 ナナシもルーグもそれがいつくらい前だった明確には思い出せない。

 それが常だけあって誰が来たかくらいは覚えているがいつ来たかまでは2人とも記憶に残っていない。


 そこにガルムも自分がナナシに監視されている時も誰1人として客が来ることはなかったという。

 まぁ、ナナシもどうせ客なんざこねぇよと店を離れていたので実際は分からないが、ルーグもウォルバーグから紹介状の話は聞いてないと言うのでそうなのだろう。


「リジーちゃんからはルーグくんとローワンちゃんとずっと遊んでいたと聞いてますよ」

「実際そうだったし」


 今更思えば、ほぼ毎日店主(ナナシ)と街の子供が遊んでばかりのというのは店としてはおかしいのだが、ルーグもそれが当たり前になっているあたり感覚が麻痺している。


「ふむふむ、やはり人間にも感じ取れるものなのだろうか」


 立てた推測を大きな独り言でユーベルトが喋る。


 街の地図からも見切れているような店といっても、ここまで客が来ないのはおかしいなことであると。


 いわゆる亜人と比べると人間はドラゴンなど高位な存在を感じ取る感覚が鈍いというのは、亜人たちの中では既存の事実だ。

 そんな人間でも無意識に感じとり避けていると言うことなのだろう。


「というかな、この店の評判が悪いかんな。そもそも客なんざ来ねぇよ」

「店主が胡散臭いとか、やる気がないって言われてるもんね」

 

 一応、客が来れば真面目に接客はするのだが適当な感じに見えることもある。その上、相手が逆立つような核心をつく言葉を口にするのでますます評判が下がっていく。


 ナナシの評価に憤慨するトーチカたちに、ルーグはでもと続けた。


「1番は他の鍛冶師(職人さん)が一目置く人が若すぎて信用されないことが多いから」

「それはこちらでもでもよくあることですね……」


 ルッツが共感するように頷きながら言う。


「私は前任者から若くして仕事を引き継いだのですが、若いからという理由だけで指示を聞いてもらえないことがありました」

「あの頃は大変であったな」


 当時を知るレオンがしみじみとつぶやく。


 だからと言って年寄りならいいという訳でもないが、才能だけですぐに認められるようなものでもないので仕方がない。


 どこも同じだとまとめたナナシはルッツが持ってきた茶菓子をつまみ、皿ごと持ってルーグとミックにも勧める。


 ルーグはいくつか手に取るとミックに食べさせながら自分もそれを口にする。


「美味しい」

「お口にあって良かった。私が作ったので」

『びっくり』


 領主は3食用意はしてくれるが、滞在場所にキッチンをつけていてくれていたのでお菓子作りが趣味なトーチカが作ったらしい。


 そうだとルーグは席を立つと前に大量に買い込んだお菓子を奥の部屋に取りに行く。


「この街のお菓子もどうぞ。オレがつくったわけじゃないけど」

人間()のお菓子は興味深いのですよ」


 そう言って真っ先に手を出したのはミシェルだ。

 警戒するより先に興味が勝る感じはやはりリジーの親戚だと納得する。


「ユーベルトさん。ユーベルトさんも頂きましょう」


 皆がルーグの出したお菓子も食べる中、未だ思考の渦から帰ってこないユーベルトをトーチカがなんとか呼び戻そうとしている。

 しかし、ユーベルトからは何の反応も帰ってこない。


「トーチカ、放っておけ」

「いつものことではありますけど、ルーグ君に失礼です」


 せっかく出してくれたのだからとトーチカは礼儀的によくないと言う。それに小さい子がやってくれたことなのだから余計に。


 ただ、ナナシもルーグも問題ないと言う。


「なんだかオーウェンさんみたいだね」

「だな。ま、そもそもこの街にゃ多いかんな、ルーグも慣れてるし気にすんな、トーチカ」


 考え始めると周囲の声が聞こえなくなる職人は結構な人数いて、ウォルバーグ(父親)もそうだからルーグからすればまた始まったくらいにしか思ってない。


「それならいいのですが」

「いつ戻ってきますかね」

「それならいいのが適任がいるぞ」


 そう言ってにっと笑ったナナシはお茶を運ぶための丸いトレイを手にするとルーグに渡した。


 ルーグは受け取ったもののそれを全力で拒否する。

 ナナシやロイには対してはやるし、頑張ればアルゼルやオーウェンくらいには出来るかもしれないが知り合ったばかりのユーベルトには出来ない。


「んじゃ、ミック。やってこい」

『合点』


 そう言われるや否やミックはルーグの手からトレイをヒョイと取ると舌を伸ばしてユーベルトの頭部へ一撃――気持ちいい音がしてユーベルトが何事かとキョロキョロとする。


 レオンがやれやれとユーベルトに今起きたことを簡潔に説明し、ミックが謝罪と書かれたカードを取り出して見せるとユーベルトもこちらこそだと謝罪をした。


謝罪(そんなこと)より早く食わねぇとなくなるぞ」


 ナナシが指さす先に視線を移動させれば、山積みにされていたはずのお菓子たちはほとんど空になっていた。


 全員がユーベルトに注目している間もただ1人だけ、ミシェルだけは関心を示さずお菓子を頬張っていたからだ。


「ミシェルさん、そんなに食べたら夕食が入らなくなりますよ」

「……そ、そうでした」


 やや間を置いて答えたあと、ミシェルはもうひとつくらいならと手を伸ばしルッツにとめられるのだった。

トーチカの作ったお菓子


連合国では一般的なお菓子。


人間と獣人、食べるものはそう大きく変わらないので普通に食べれる。


ただし人間の作るものと違い、連合国のお菓子はハーブティー然り、なにかしらの効果のあるものいれて作ってある。

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