↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神と共に、相談を!  作者: 沢谷 暖日
仲良し少女の恋愛相談

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/83

三回目のキス

 廊下を歩く。

 何となしに見た外は暗かった。

 吹奏楽の音は相変わらず聞こえてきてはいるが、時間帯的にもう下校時刻。

 楓花は多分……桃杏ちゃんと帰るよね?

 付き合ってる同士だし。まぁ、そりゃそう、か?

 まぁ。考えすぎても仕方ない。私には心音が待っている。


 廊下に奥に、ぼんやりと溢れ出している空き教室の光。

 そこに目がけて私は小走りする。


 何というか。

 こんな気持ちになるっていうのは、私にとって初めてのことだ。

 心音に対する想いで、こんなにも気持ちが舞い上がってしまうことだ。

 だけど、それは同時にとても大変なこともあり。

 心音のことを考える度に歪んでしまう私の顔。

 それを整えるのはとても大変なのだ。

 これは幸せの証? なのかな?


 ともかく、今は目の前にある幸せを、じっくりと楽しみたい。


 考えている間に、すぐそこに迫った空き教室。

 舞い上がる気持ちを抑えながら、私はその中へと入る。


 先と同じ場所に、心音はいた。

 少し距離を置いて見る心音は、やっぱり女神のようだ。

 長い髪が綺麗だし、顔も綺麗だし、姿勢も綺麗だし、手の形も綺麗だし、そしてその横顔も綺麗だし、可愛いし、可愛いし、可愛いし──。

 ──って、何考えちゃってんだ私……。


 だめだめ。と頭をブルブル左右に往復させる。

 そして、そんな考えを振り払うように、私は明るくこう言って見せる。


「ただいま!」


 声に反応した心音は、ゆっくりとこっちを見る。

 「ただいま」は聞こえてこない。聞こえる筈がない。

 その事実に、若干悲しみを覚えながらも、私は心音の方へと歩む。


 縮まる距離、これから何が起こるのだろうと想像も膨らむ。

 いや、キスだよね? キスをするんだよね?

 だって心音が言ってたんだもん。うんうん。

 するに決まってる。


「よ、よっす」


 目の前まで近づいて、緊張をしているのか何なのか、右手を軽く上げてそう言う。

 そして次には、


「こ、こーい!」


 両手を大の字にバッと広げて、心音を受け入れる態勢をとった。

 我ながら、もの凄く恥ずかしいけど。

 心音は一瞬困惑したようだったけど、頷いて、こっちへと寄ってきてくれる。

 広げた両手が少し痛くなってきて、その時に、私の胸に柔らかい心音の感触が当たった。


 心音の腕が私の腰に回ってきて、ぎゅっと密着される。

 この瞬間は凄く顔が熱くなるし、どちらかと言えば耳の方が熱くなる。

 これから何回もこういうことをしたいと、私は願ってはいるけれど、いつになってもこれに関しては慣れる気がしない。

 毎回新鮮で……だけど寧ろその方がいいのかもしれない。


「……」


 耳に吹きかかる心音の吐息。

 私は、もしかしたら耳に弱いのかな。

 なんだか、とてつもなくゾワゾワする。


「伊奈さん。美結さんと何をやっていたんですか?」


 そして。

 こうして声がかけられる時も、体が少しだけ震えてしまう。

 気にしてばかりもいられず、私はその声に返答をする。


「えっと。私が遅かったからか、美結ちゃん、もういなくてさ」

「そうなんですね。それじゃあ、何してたんですか?」


「えーっと。美結ちゃんのラブレター? みたいなのを読んでかな」

「え。それって伊奈さん宛の手紙ですか?」


「いやいや。多分、同じクラスの子に宛てた手紙なんじゃないかな?」

「そうですか。分かりました」


 納得したように頷く顔が、私の髪を揺らした。


「じゃあ。キスしましょう」

「じゃあ?」


「嫌ですか?」

「したいです! させてください!」


「わかった」


 心音が言った瞬間、私の体から重さが消えた。

 目と鼻の先に、心音が映る。

 本当に『目と鼻の先』だ。

 今からキスするんだって。当たり前のことなのに、思ってしまう。


 目を閉じた。

 私のほっぺに、手が触れた。

 位置を調整するように、私の顔が動かされる。


 やがて、私の唇に触れた心音の唇。

 そこから交換し合う、互いの息。

 学校でしているというその事実に、謎の背徳感さえあった。


 キスするのは。三回目。

 前回の後、したキスの感触が思い出せなくて、少し悔やんでいた。

 だから、今はこうしてキスの感触を自分の中に刻み込ませる。

 柔らかい唇、そこから漏れ出ている可愛い声。それらを全部。


「んっ──」


 息が苦しくなり、私は口を離そうと。

 そうするけど。心音に強く手で縛られている。だからそれは叶わない。

 鼻で呼吸して、なんとかそれを凌ぐ。

 同時に流れ込んでくる心地の良い香りが、鼻をくすぐる。

 もういつまでも、この状況が続いてもいいってそう思えた。


 けれど。現実は甘くないわけで。


「──電気ついてるから、消してくるねー!」


 廊下の奥から、聞き覚えのある明るい声。

 多分、吹奏楽の練習を終えた妹。

 こっちへと、パタパタとスリッパの音を響かせてやってきていた。


 ……ここでキスは終了かな。と。

 諦めて。私は、今度こそ心音から離れた。

 心音もあっさりと離してくれて、薫る唾液の匂いが鼻を突いた。


 だけど。キスの余韻に浸らせることなく。

 次に気がついた時には。


「えっ──」


 ぐいっと片腕が引っ張られて、教室の角にある、掃除用具入れ。その場所へ。

 小さな戸を静かに開けた心音は、私を小さいそのスペースに収納した。

 かと思えば、心音も私と一緒にその場所に入り──戸を閉めた。


 掃除用具入れと言っても、空き教室のためか何もない。

 あるものといえば、溜まった汚い埃だけ。


「っはぁ──」


 とても狭かった。

 二人で、一杯一杯だった。


 冷静になって、なんでこんなことになっているんだと考えた。

 けど。考えれるほど、頭は回らなかった。


 顔も見えない。

 それくらいに、密着していた。

 教室に入った足音が、部屋の電気を消して。

 もう何も見えなくなった。


 足音が去っていくのを確認して、私は。


「……行ったよね? ……出よっか」


 そう言ったのに、


「ダメです」


 断られて。

 私の顔を探る心音の手に捕らえられ、強引にキスをされた。


 嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。