好きの大きさは星くらい
改稿して投稿し直しました
「ちょっ……。こ、心音」
ロッカーの中で、一分以上合わせた唇。それが離れ。
少しだけ冷静になった私は、名前を呼んだ。
その名前を呼ぶのに、少しだけ躊躇った。
「どうしたんですか? 伊奈さん」
「どうしたんですか、じゃなくて。急にどうしたの? こんな、キツキツな場所に押し込んで……」
「それはですね。今、ここを訪れた人に見られたら色々危なそうじゃないですか……。それに、まだ、キスもし足りないですし……」
「……心音って、どスケベさんなんだぁ」
「……嫌でしたか? 伊奈さん、私がキスした時、なんだかノリノリだったじゃないですか……」
「……そ、そうですか、ね?」
「そうです。とても凄かったですよ……。ごちそうさまでした……」
「どういたしまして? ん?」
「もう一回しますか? キス。……というか、したいです。させてください」
「──だ、ダメ! もう下校時間だから! おわりおわり!」
狭い空間に響く私の声。
言ったはいいが、心音が障壁となっていて中から出れない。
というか、狭すぎるんだよここ。
ハウスダストみたいなのも舞っててなんか気持ち悪いし。
待って、ここは学校だからスクールダスト?
いや、更に待て。今はそんなこと気にしても仕方ない。
キスも、せめてここじゃないどこかでして欲しい。
にしても心音って、本当に変態なんじゃないかって思う。
わざわざ、こんな場所に隠れて。それもキスをするためだけに。
こういうのって……欲求不満って言うのかな。
「……伊奈さん。私のこと、欲求不満おばけだと思いましたか……?」
「なっ──!」
まるで心の内を見透かされているようで怖い。
驚きを隠せないでいると、心音の溜息が私の背筋を撫でた。
「……ほら図星。……いいですか? 私は欲求不満です」
「んんんんんん⁇」
まさかの回答が心音から飛び出る。
「正確に言うと。……私って、伊奈さんに対する想いを、ずっと、ずっと、秘めてきたわけじゃないですか?」
「う、うん」
「……そして、一昨日。その想いが、伊奈さんに伝わって、今は私は幸せの絶頂にいるわけなんですよ……」
「ど、どうもしちゃうね……」
「伊奈さん……。私の好き度は、どれくらいの大きさか分かりますか?」
「んー。……すごく……かな?」
「いいえ。私の好きの大きさは、星くらい大きいですよ……」
「確かに、大きいけど……」
なんか例えが分かりづらい。
「星って、小さいように見えて……大きいんです。そういうことです」
「けど、星ってたまに、流れて消えちゃわない?」
「た、確かに……。……じゃあ、天王星くらいですか、ね」
「小さいように見えて大きい星じゃん、それ」
「そうなんです。ともかく、それくらい好きなんです……」
「す、ストレートですねー」
「……だから、キスとか、たくさんしたいんです」
「そ、そーなんだー」
私は照れつつも返事をした。というか、この話の間。ずっと照れていた。
心音は、めっちゃ私のことが好きなんだって。
そんなにも、私のことを求めているんだって。
この崩れまくった顔を見られないで済んで、狭くて暗いこの空間を初めてありがたく思った。
「……」
なんとなく気まずくなって。
「……出よっか」
「はい……」
そんな風に、すんなりと掃除用具入れから脱出した。
埃をパンパンと払って、見えない教室の中で自分のカバンを探し。
そういえば、と。スマホを取り出して現在時刻を確認した。
「七時……三十分」
結構まずかった。
もう。正門が閉まる時間だ。
「こ、心音! 急がないとヤバイ!」
返事をしない心音の手を取って、私たちはダッシュで教室を後にした。
結論から言うと、私たちは無事学校を脱出した。
思えば、見回りの先生に見つかる可能性もあったけど、まぁ無事だった。
心音も、学校の外に止めてあった母親の車に乗り込んで、そこでバイバイをした。
私は家への帰り道。
そして急に訪れる孤独感。
けれど。今日あったことを思い返すだけでも、幸せな気分になれるものだ。
住宅街を歩く。
そこで、ふと。気になった。
いつもその横を通るはずなのに、大して気にもしていなかったが。
私の通学路の途中には、美結ちゃんの家があった。
と言うより、今、そこにある。
割と普通の大きさの家。電気は付いていた。
表札に刻まれた名は白河。美結ちゃんの姓だ。
車は二台停まっている。多分、父親と母親の車。
美結ちゃんは、中学生の頃引越しをし、高校生になった今、この辺りに戻ってきたと、そう言ってた。
それが恐らく、元々住んでいたこの家なのだろう。
そこで一つ、疑問に思った。
なぜ今まで美結ちゃんを目撃しなかったのか。
こんなに近所なら、四月から数えてこの五ヶ月間、一度は目にしていいものではないのだろうか。登校中、ないし、下校中。
だけど。一度も見かけなかった。
気にしすぎ?
だよね。




