帰り道、荒れている心
ここに来た本来の目的は、尾行の筈だったのに。そしてそれは失敗に終わったのに。
もう、なんだかどうでもよかった。
帰りの車の中。
私の心の中は酷く荒れていた。
背筋が緊張なのか張り、天崎ママともどう話せばいいのか分からない。
動揺して、今は何も喋れそうになかった。
……キス、された。
その感触は柔らかくて。
合わさった唇。
そこから交換し合う互いの吐息。
繋がっていた。
少なくとも良い時間だった。
背徳感に似た何かを感じた。
「…………」
好きだ。……たぶん。
好きになるの早すぎるかな?
まだ会って三日目なのに。
確かに、恋の訪れは突然だった。
けど、一目惚れって言葉があるくらいだし、三日というのも案外普通なのかもしれない。
今はどうしても、天崎さんの顔を見れそうにない。
見たら。きっと顔が紅潮する。
爆発しそうなくらいに、顔が赤で埋まる。
事実、今も私の顔は熱い。
天崎さんは、どうせすまし顔なのだろう。
私はこんなにも色々考えて、顔を熱くしてるというのに。
キスされて、好きになる。
こんな人っているのだろうか。
私って、凄く単純な人なのかもしれない。
というか。こんなに真っ直ぐ好意を伝えられたことなんて今まで無かったし、だから好きになったのかな。
すき、きす。
きす、すき。
なんか似てる。
……好きとキスは表裏一体。
そんな気がしてきた。
あんなにいきなり、唇を奪われたというのに不思議と不快感は全くない。
なんで?
そう自分に問うてみても、答えは返って来なかった。
「今日は楽しかったー?」
俯いている私を見兼ねたのか、どこか様子を伺うような感じで、前から飛んでくる天崎ママの声。
「楽しかったですよ」
考えもせずにそう返答した。
「良かった良かった。伊奈ちゃん、顔が赤いからさー。なんか熱があるんじゃないかと思って、熱のせいで楽しめなかったんじゃないかなーって」
「うっ……。だ、大丈夫です。ちょっと暑いからですかね。はは……」
「そう? クーラーは結構効いてると思うけど……」
…………。
そんなに顔、赤いかな。
「もうすぐ着くからねー。準備よろしく!」
「はい」と軽く頷いて、忘れ物はないかなとポケットを探る。
持ってきたのはスマホと財布だけ。
忘れ物は特にない。
それなのに、何かを忘れているような。
そんな感覚にとらわれてしまう。
「じゃあ伊奈ちゃん。今日は娘と遊んでくれてありがとー」
「こちらこそ、車乗せて下さりありがとです」
一切、天崎さんとはやり取りをせず。
私は車を降りる。
ちらと目を向けても、彼女は下を向いていた。




