一言も無い、観覧車
十五時半。
意外にも時間は経過しているものだった。
先程は天崎さんの手は私の肩にあったが、今は手を繋いでいる。
観覧車に乗るために列に並んで、順番待ちだ。
十人程度が私たちの前にいる。
こういう時、普通は何か会話をするものなのだろうけど、ラインを使ってまで会話するほどのことは特になく。
手汗が出て、少し握りにくくなったら、また握り直す。
そういうことを繰り返しているだけだった。
一組、観覧車へ乗り込む。
一歩、前へと進む。
もう一組。もう一歩。
もう一組。もう一歩。
そうぼーっと眺めている内にあっという間に、私たちが乗れる番が回ってきた。
受付とのやり取りを経て、回ってきたゴンドラにゆっくりと足を踏み入れる。
ドアが閉まり。
対面で座るつもりだったけれど、片側のシートへとわざわざ二人で座った。
繋いでいた手を離し、無意識的に服で手汗を吹く。
観覧車に乗ったからって、特にすることは無かった。
デートとは普通こういうものなのだろうか。
天崎さんを見ても、ただじーっとして。
ラインを送ってくるわけでもなく。
一体何を考えているのだろうか。
感情を表に出さない人だし、何も分からない。
むしろ何も考えてないのかもしれない。
けど、さっき観覧車に乗ることが決まった時は、嬉しそうな顔になってたんだけどな。
「………………」
こういうデートみたいなのって。
よく水族館とか、遊園地とかって行くものだと、そうドラマや漫画で見るけれど、いざ自分がこういう状況に置かれたら何をすればいいのか全く分からない。
第一、声が届かないんじゃどうしようもないというか、ラインだけじゃ相手の感情は分からないし、ましてや天崎さんはほとんど真顔だし。
……ともかく、このままじゃどこか寂しい。
スマホを取り出して、天崎さんとのチャット欄を開く。
『どーですか? 観覧車』
ついでに可愛いクマのスタンプも添えた。
スマホの震える音が丁度横から聞こえ、天崎さんも同じ様にスマホを取り出して、何かを打ち込む。
『ごめんなさい。考え事をしてしまっていて……。今から観覧車を楽しみます!』
『うんうん。楽しんで楽しんでー。せっかく天崎さんが乗りたいって言ったんだからさ!』
そう返して、スマホを膝の上へ伏せた。
観覧車って、会話をしながら景色を楽しむものだと思う。
ラインをしながらじゃ、景色は見れない。
景色を見てたら、ラインはできない。
私たちの状況は、とても難しいものがあった。
上半身だけを窓の方へと向け、外を眺める。
こんな田舎の景色でも、高所から見ればそこそこ綺麗だ。
もうすぐ一番上。
半分が経過しようとしていた。
あとは、最後までこの眺めを楽しもう。
──とんとん。
と思ったのも束の間、私の肩が優しく叩かれる。
その天崎さんを見て、こっちの方も綺麗だと思いつつ、これは多分ラインだなと、膝の上で伏せていたスマホを上に向けた。
『女子同士の恋愛って、どうですか?』
……。
そう、メッセージが届いていた。
いきなりすぎる質問に困惑しつつも、私は思ったことを返信する。
『いいと思うよ』
『伊奈さんは、どうなんですか? 女子同士で恋愛をしたいと思う人ですか?』
『えっと、それは……。どうなんだろう』
『相談です。……私が付き合ってって言ったら、付き合ってくれますか?』
『……いきなりすぎて。それは、考えてみないと』
『私が、声を出せないから。ですよね? 私の気持ちが、あまり良く伝わってないんですよね?』
『……心を読んでる? ……まぁうん。そうかもしれない。……なんだろう。自分でもなんて言えばいいのか分からないけど……。本当になんて言えばいいんだろ』
『ごめんなさい。だけど、伊奈さんは私にあんな風に言われて嬉しかったんですよね?』
『うん。嬉しかった。すごく』
『良かったです。嬉しいです。そう言ってもらえて』
『本音を伝えただけだよ』
『それでも、嬉しいんです。…………窓の外、見てみてください。綺麗ですよ』
スマホをまた膝の上に置く。
言われるがまま外を見る。
もう、四分の一くらいで終わりだろうか。
天崎さんには申し訳ないけど、一番上で見た景色の方が美しかったかもしれない。
けど。まぁ、せっかくだし最後までこの景色を楽しもう。
──とんとん。
……まただ。
肩をつつかれる。
景色を楽しんで欲しいんじゃないのーと、心の中で笑いながら、天崎さんを見た。
そして私は、固まった。
絶句した。
「────」
天崎さんが。
すぐそこに。
目の前にあるのは、彼女の目だった。
甘い良い匂いが鼻をくすぐる。
綺麗な顔。滑らかだ。
何も考えられず、動けず。
けど一番上で見た景色よりも、美しいものがそこにはあって。
天崎さんは両手で私の肩を捕まえる。
何をされるかだなんて、分かりきっていた。
なのに、私はそのまま抵抗もせずに。
キス、された。
口付けなんてそんなものではなくて、これは紛うことなきキスだった。
したことないのに、それが分かった。
彼女の熱が伝わる。
熱い。夏の暑さじゃない。
彼女が発している熱だ。
「──っ」
息が続かない。
そう思った時、口から彼女の口が離れた。
すかさず、スマホを私の目の前に突き出してくる。
『これが私の想いです』
とくんと心臓が跳ねた。
キス一つでこんなにも変わる、私の心は単純だ。
けど、伝わった。彼女の想いが。
ダイレクトに私の心に刺さる。
心臓がドキドキしている。
このドキドキの意味が分からないほど、私は鈍感系じゃない。
「あぁ、こういうことなんだな」と。
自然に受け入れた。
すんなりと結論に着地した。
初恋だった。




