第七章:皮剥の画廊と凍てつく慟哭
#ミステリー #杉沢村 #都市伝説 #創作
江戸は茶封筒を握りつぶした。「江戸こそが、私の最後のキャンバスである」という父の言葉が、胸に突き刺さった短刀のように抉る。悲しんでいる暇はなかった。上の階から、重いブーツの足音が聞こえ始めたのだ。……ドサッ、ドサッ、ドサッ。規則正しく、静かで、冷酷な響き。
今すぐに「真紅の間」を見つけなければならない。
江戸はあの瞳のない男の言葉を思い出した。「父の屋敷の地下にある」と。彼は埃っぽい書斎を見渡した。巨大なチーク材の本棚の裏の床に、円形の擦り傷がついているのを見つける。何度も動かされた跡だ。
残された力を振り絞り、江戸は本棚を押し除けた。……ギィィィ! その裏に、錆びついた小さな鋼鉄の扉が隠されていた。扉を開けた瞬間、先ほどのアトリエよりも十倍は濃厚な腐臭が鼻を突いた。それは数十年にわたって蓄積された、死の凝縮体だった。
朽ちかけた木のはしごを下りる。一段踏みしめるごとに、階段が苦悶の声を上げているようだった。下りきった先には狭い廊下があり、壁は乾いた血で黒ずんだ赤のベルベットで覆われていた。
廊下の突き当たりに、一本の木の扉が立っていた。その上には、人間の髪の毛が角に巻き付いた動物の頭蓋骨が吊るされている。
江戸はその扉を押し開けた。
――ドクン。
江戸の総毛が逆立った。広々としているはずの部屋は、息が詰まるような圧迫感に満ちていた。天井からは、薄くなめされた何百枚もの人間の皮膚が、有刺鉄線で吊り下げられていた。それはまるで、死の蚊帳のように垂れ下がっている。芯のない何千本もの赤い蝋燭がゆらゆらと燃える微かな光の中で、その皮膚たちは、どこからともなく吹く風に震えていた。
部屋の中央には、大理石の手術台が置かれていた。そしてその上には……母の結婚指輪をはめたままの骸骨が横たわっていた。
「母さん……」江戸は膝から崩れ落ちた。声が喉の奥に消える。
しかし、真の恐怖は、一番奥の壁を目にした時に始まった。そこには、未完成の巨大な絵画があった。描かれていたのは、まさにこの真紅の間で膝をつき、今感じているのと全く同じ恐怖の表情を浮かべた江戸自身の姿だった。
突如、天井から吊るされた皮膚たちが声を上げ始めた。風の音ではない。閉じ込められた何千もの魂の囁きだ。
『彼はもう、ここに来ているわ、江戸……』
『お前の父親が、もう後ろに立っている……』
江戸は、強張った動きで振り返った。真紅の間の入り口に、巨大なシルエットが毅然と立っていた。手に持った長い刃に、赤い蝋燭の光が反射する。男は仮面をつけていなかった。その顔は、紛れもない父の顔だった――冷徹で、後悔など微塵もなく、狂った野心に満ちた顔。
「我が家へようこそ、江戸」父の声が、晩餐会の客を招くかのように、重々しく、威厳を持って響き渡った。「泣くことはない。母親は死んでなどいない。彼女はただ……永遠の芸術作品になったのだ。そして今度は、私の番だ。お前の皮膚の上に描く番だ」
父の背後の扉が、激しい音を立てて閉まった。――バタン! 江戸は、永遠に続く真紅の暗闇の中に閉じ込められた。




