第二章:絡みつく線
#ミステリー #杉沢村 #都市伝説 #創作 #拡散希望
江戸はまだ立ち尽くしていた。先ほどまでの後部ガラスを叩く音は消え、代わりにさらに不気味な静寂が辺りを支配していた。それはまるで、彼の一呼吸さえも監視しているかのような静寂だった。震える手で、彼は助手席にある古びた革の鞄に手を伸ばした。それは母の遺品――あの画家が自分のアトリエで「不慮の事故」で亡くなる直前まで持っていたものだ。
彼は黄ばんだリネンの表紙のスケッチブックを取り出した。
小さな懐中電灯を灯し、何度も印をつけたページを照らす。そこには、崩れかけた鳥居の荒々しい素描があった。線は鋭く、強い筆圧で描かれており、まるで母が極限の恐怖の中で描いたかのようだった。
「同じだ……」江戸は呟いた。
スケッチに描かれた木の柱の亀裂は、先ほどバックミラー越しに見たものと寸分違わぬものだった。しかし、以前は見落としていた細部があった。本をライトの光にかざして傾けると、紙の隅にインクのないペンで押しつけられたような跡――エンボス状の傷が浮かび上がったのだ。
それは単なる風景画ではなかった。図面だった。
母はただ杉沢の美しさを描いたのではない。彼女は自分の逃走経路を記録していたのだ。鳥居の絵の下には、判読しがたいほどかすれた手書きの文字があった。『提灯の明かりを追ってはならない。お前の父が、お前を惑わすためにそこに置いたのだから』。
江戸の鼓動が激しく打ち鳴らされた。父が?
これまでの父は、家の地下室にこもり、代々続く木材の家業を淡々とこなす寡黙な男だった。なぜ母は、この森の中で父が脅威であるかのような書き残しをしたのか。
突如として、暗い木々の間に、ぼんやりとした黄色い光が遠くに現れた。一つの紙提灯が風に揺れ、まるで江戸を招き寄せているかのように手招きしている。
江戸は再び母のスケッチに目を落とした。そこには、提灯があるはずの場所に小さな「×」印が描き加えられていた。そしてその印の傍らには、江戸の総毛を逆立たせる一言が記されていた。――「罠」。
江戸のライトが明滅し、ついに消えた。完全な闇の中で、彼は一つの事実に気づく。車はエンジントラブルで止まったのではない。数十年前に父が計画した、まさにその場所に停車させられたのだ。




