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第87話 美樹の訪問
夕方、私は白い麻の襷を肩から外した。代わりに祖母が生前よく着ていた、紬の和服を着た。寸法は誂えたように私に合った。私は山麓の小さな家——美樹の家——を訪ねた。戸を叩くと美樹がゆっくりと戸を開けた。
「美咲ちゃん」
「美樹さん。お邪魔します」
居間に通された。仏壇に佐々木健一の、白黒の写真。美樹がお茶を淹れてくれた。私はその湯呑みを両手で包んだ。
しばらくの沈黙の後、美樹がゆっくりと聞いた。
「智樹さんは井戸に入られた?」
「はい」
「美樹さんは——彼に会えましたか」
私は首を傾げた。彼女が何を尋ねているのか、最初はわからなかった。それからわかった。水脈の中で智樹が健一に会ったかどうか。健一が智樹を受け入れたかどうか。私は自分の中の、深い場所に耳を澄ませた。
そこからわずかに声が聞こえてくるような気がした。
「美樹さん」
「うん」
「健一さんは智樹を温かく迎えてくれた、そうです」
「健ちゃんが?」
「はい。智樹を息子のように抱きしめてくれた、と」
美樹の目に涙が浮かんだ。久しぶりの、人間の涙だった。
「ありがとう」と、美樹は震える声で言った。
「ありがとう、美咲ちゃん。私の代わりに健ちゃんに会ってくれて」
私は頷いた。
「美樹さんも、いつか健一さんに会えますよ」
「うん。もう、すぐ、ね」




