第81話 夜明けの祝福
五日目 還の日
前夜、宴のあと私と智樹は祖母の家に戻っていた。智樹は布団に入った瞬間、もう寝息を立てた。私はしばらく、彼の寝顔を見つめていた。
——智樹。
ここに来てくれて、ありがとう。私は彼の額に軽く口づけした。それから自分も、布団に横たわった。けれど、眠らなかった。還の日の儀式は夜明けに始まる。それまでの、わずかな時間だった。
やがて、空が白み始めた。ぞっとするほど、静かな夜明けだった。智樹がまだ眠っている間に私は白い麻の襷を肩にかけた。それから智樹の枕元で彼を起こした。
「智樹、起きて」
「ん……」
「智樹、見せたい場所、あるんだ」
智樹が目をこすりながら、起き上がった。
「どこ?」
「山の上の、井戸」
「井戸?」
「うん。村の、いちばん大事な場所。お祖母ちゃんが毎日お参りしていた」
「美咲のお祖母さんの場所か」
「うん」
智樹はふらつきながら、立ち上がった。宴の酒がまだ抜けきれていなかった。
「智樹、襷をつけて」と、私はもう一着、白い麻の襷を彼に渡した。
「これ、何?」
「お祭りの装束。智樹も、今日はお祭りに参加するから」
「ふうん」
智樹は素直に襷を肩にかけた。
「美咲、似合うね」
「智樹も、似合う」
私たちは手を繋いで家を出た。
朝霧の中、村人たち全員がすでに外に出ていた。皆、白い麻の襷をつけて、村の通りに並んでいた。私と智樹が家を出ると村人たちが一斉に、私たちに頭を下げた。
「美咲さんと智樹さんにお祭りの祝福を」




