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第7話 思い出せない親友

朝、目が覚めた時、私は奇妙な感覚に襲われていた。


何かを忘れている。大切な、何かを。


しばらく天井を見つめながら、それが何だったか思い出そうとした。夢のせいだろうか。子供の頃に水の中で見た、透明な人たち。彼らが私を「仲間」と呼んだ、あの声。


——いや、違う。それは思い出している。


忘れているのは、別の何かだ。


ふと、口の中で、ある名前が形になりかけた。


「ゆ……」


そこで、止まった。続きが、どうしても出てこない。


ゆ、で始まる名前。誰だろう。誰かの名前のはずなのに。優子? 由美? 違う。もっと、近い人の名前。私の人生に、大事な意味を持っていた人——


ゆ——


カーテンの隙間から差し込む朝の光に、目を細めた。


その瞬間、何かが頭の中で霧散した。


思い出そうとしていた名前が、輪郭ごと、消えた。


不思議な脱力感に襲われた。何を考えていたのだったか。——ああ、そうだ。今日、休みの計画を立てなければならないのだった。祖母の遺品整理。やっと、長めの休みが取れた。


ベッドから起き上がり、押し入れの奥から、ボストンバッグを引っ張り出した。最後に使ったのは——思い出せない。何年も使っていない気がする。


埃を払う。その時、バッグの底に、何かが当たっている感触があった。中を覗くと、忘れていた小さな写真立てが転がっていた。ガラスが少し曇っている。布で拭いて、写真を見た。


私と、もう一人。


知らない女性が、私の隣で、笑っていた。


ショートカットの髪。日に焼けた肌。健康的な笑顔。私が、彼女の肩に手を回している。楽しそうに、笑っている。


——誰だろう、この人。


写真の背景には、山。木々の間から、湖のような水面が見えている。


御霊山だ。


なぜか、それだけは、わかった。

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