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第77話 外れの女
智樹を祖母の家に案内した。
「ここがお祖母様の」
「うん。すごい、いい家だね。落ち着く」
「でしょう」
「美咲が東京に戻りたくない、って気持ち、ちょっとわかるかも」
私は笑った。智樹が私を知らない、ということがもう明らかだった。
午後、里穂が迎えに来た。
「村の温泉、入っていきませんか? 智樹さん、長旅でお疲れでしょう」
智樹は嬉しそうに頷いた。村の温泉は村の奥の、川沿いにあった。古い、木造の、小さな共同浴場。里穂が智樹に女湯と男湯の入り口を説明した。
「美咲は入る?」
「私は後で入るね。智樹、ゆっくり入っておいで」
智樹が男湯に入っていった。私は女湯の前のベンチに座って、待った。ふと湯気が男湯側から立ち昇ってくるのが見えた。
——智樹はいま、村の水に浸かっている。
そう思った途端、胸の奥で何かが小さく揺れた。里穂が私の隣に座った。
「美咲さん」
「うん」
「智樹さん、本当に優しそうな方ですね」
「うん。優しい人だよ」
「明日からの儀式の意味、智樹さんはご存知じゃないんですよね」
「うん」
「美咲さんからお話、される?」
私は首を横に振った。
「智樹に話したら、智樹は悲しむ。私は智樹に悲しんでほしくない」
里穂が頷いた。
「わかります。村のみんなも、同じ気持ちです」
私はベンチで夕日が山の稜線に沈んでいくのを見つめた。




