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第76話 抱擁
智樹の腕の中で私はしばらく動けなかった。
「智樹」
「うん?」
「ありがとう、来てくれて」
「お前が呼んでくれたから当然」
「うん」
「美咲、痩せたか?」
「そうかな」
「いや、肌の感じがなんか違うな。妙に白くて、しっとりしている」
「水の村だから肌にいいのかも」
「ああ、そうかもな」
智樹が私の頬を優しく撫でた。指先が私の頬の、わずかにひんやりとした湿気に触れた瞬間、彼の動きが一瞬止まった。
「美咲」
「うん」
「お前の頬、なんか濡れてる」
「泣いてないよ」
「うん、わかってる。でも、なんか汗とも違う」
「気のせい、だよ」
「うん」
智樹はそれ以上は追及しなかった。代わりに私の頬をもう一度優しく撫でた。里穂が控えめに二歩近づいた。
「お疲れでしょう、智樹さん。家までご案内しますね」
智樹は里穂に丁寧に頭を下げた。
「美咲のお友達ですか?」
「ええ。水守里穂です。美咲さんのお祖母様の、家の管理を手伝っていて」
「そうですか。お世話になっています」
里穂はにっこりと微笑んだ。智樹は私と里穂の両方に感謝の目を向けた。私は智樹の腕に手を絡めた。




