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第71話 電話
呼び出し音が聞こえた。一度。二度。三度。四度目で智樹が出た。
「美咲? よかった、連絡来た!」
智樹の声が聞こえた。懐かしかった。私が二日目に井戸の前で思い出せなかった、智樹の声。今、はっきりと聞こえた。
「智樹」
「うん」
「ごめんね、長く連絡しなくて」
「いいよ、いいよ。それより、大丈夫? 遺品整理、進んでる?」
「うん。もう、ほとんど終わったよ」
「そっか。よかった。じゃあ、もうすぐ、戻ってこられる?」
私はしばらく、何も言えなかった。縁側の向こうで昼近い陽射しが山の稜線を白く照らしていた。
「智樹」
「うん?」
「来てくれる?」
私はゆっくりとその三文字を口に出した。
「来て?」
「うん。私のところに」
電話の向こうで智樹が小さく息を呑んだのがわかった。
「美咲、何かあったのか?」
「ううん、何も」
「でも、なんか声が変だぞ」
「変じゃないよ。ただ、智樹に会いたいだけ」
私の声は自然に優しかった。智樹の声がしばらく沈黙した。それから彼は優しく答えた。
「うん。行くよ」




