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第65話 朗読に結衣の名が混じった
朗読はまだ続いていた。
「平成十年、和田正樹、三十五歳」
「平成十六年、林敏子、四十八歳」
「平成二十一年、佐藤健次、二十六歳」
そして、村長の手がふと止まった。ページの上に置かれた、その指先が小さく震えた。村長は私の方を見た。一瞬。それからもう一度ページに目を戻した。
「平成二十九年、結衣、二十六歳」
——結衣。
その名前を聞いた瞬間。私の中で何かが固く閉じた。直前まで揺らめいていた、結衣の顔の記憶がぴたりと形をなくした。私の反対側に座っていた里穂の体がびくりと震えた。
肩から指先まで走った、細い震え。声を出すまいとこらえているように見えた。里穂は頭を垂れた。その頭の傾き方がほかの村人たちとわずかに違っていた。私の隣のハツが、私の手の、もう片方を握った。
「美咲ちゃん」
ハツの声は囁きのように優しかった。
「思い出さなくて、いいよ。覚えてなくて、いいよ。ぜんぶ、ここで預かるから」
私は頷きたかった。けれど、首が動かなかった。朗読は続いていた。
「平成三十年、宮川正子、六十二歳」
「令和二年、——」
それでも、私の頬から涙だけが流れていた。塩気も、匂いもない、ただの雫。私は結衣を泣いていた。




