第55話 美智子の影
祭りの後、私は里穂に促されて、神社の奥の、小さな建物へ案内された。
「水見の方々をお祀りする御堂です」と、里穂が説明した。
中は薄暗かった。壁の三面に肖像画がずらりと並んでいた。正面の壁。最古のものから最新のものへ年代順に肖像が並んでいる。最古の絵は墨で描かれた、江戸時代風の女性。次は明治、大正、昭和の前半。
写真の時代に入ると肖像は白黒の遺影に変わる。皆、和服姿の、品の良い、年配の女性たち。カラー写真の時代になっても、形式は変わらなかった。そして、最後の写真。
——祖母、相沢美智子。
帯のきっちりと結ばれた、紬の和服姿。穏やかな微笑み。私の知っている、東京の家で見た祖母とは、少し違う、満ち足りた表情。里穂が私の隣に立っていた。
「お祖母様、お亡くなりになる、その年の春に撮ったお写真です」
「春に?」
「うん。皆さん、自分の番が近いと感じられた時に、ご自身で撮りに来られるんですよ」
——自分の番が近い。
それは祖母が自分の死を予感していた、ということだ。
「美咲さん」里穂が私の方を向いた。
「いつか、美咲さんのお写真も、ここに並びます」
里穂はそれを当然のように言った。私は何も答えなかった。ただ、祖母の写真をもう一度見つめた。
——あなたも、そう思っていたのですか、お祖母ちゃん。
写真の中の祖母は微笑んだまま、答えなかった。




