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第53話 白い襷をかけられて
水守神社の本殿の前で村長らしき老人が祝詞を上げ始めた。低い、震えるような、男の声。村人たちが両手を合わせて、頭を垂れていた。私も同じように手を合わせた。
祝詞は聞き取れない、古い言葉だった。けれど、その響きの中に繰り返される、ある音節があった。
「ミミ……ミズ……ミヅ……」
水を意味する音。祝詞が終わると村長が私のところへ歩いてきた。両手に白い布の襷を持っていた。麻の襷。古いものだが丁寧に手入れされていた。何度も洗われた、柔らかい、布の質感。
「相沢美咲さん」
「はい」
「お祖母様の孫としてこの襷をお受け取りください」
私は両手で襷を受け取った。村長がその襷を私の肩からたすきがけに結んでくれた。里穂が傍らで頷いていた。
「お祖母様の時も、これを掛けてもらってたよ」と、里穂が囁いた。
「美咲さん、よく似ています」
私は自分の肩を見下ろした。白い襷。襟元にわずかに刺繍があった。何かの模様。井戸の形のような、小さな円。その襷を肩にかけた瞬間、私の体の内側で何かが静かに整った気がした。服を着替えたような感覚。新しい役目をまとったような感覚。




