第52話 祭りの始まり
一日目 入りの日
トンネルから戻った翌日、水守祭が始まった。
朝、外に出た瞬間、村の空気が昨日までとは違うものになっていることに、私は気づいた。通りの石畳が水で丁寧に撒かれていた。湿った、苔のような、土に近い、清らかな匂いが、村全体に漂っていた。
家々の軒先の湿気袋はいつもより、わずかにふくらんで見えた。中の水が夜の間に増えたかのように。そして、村人たちの服装が変わっていた。普段の、土仕事の服でも来客用の服でもない、白い、簡素な麻の上着。誰も彼もが同じ上着を肩にかけていた。
その白さが湿った石畳の灰色の中で、わずかに光って見えた。私は里穂に呼ばれて、村の中心の水守神社へ向かった。神社は村の他の建物と同じく、屋根が異常に高く、四方の雨樋が太い。境内の中央に古い杉の木が一本、立っていた。樹齢はおそらく数百年。
すでに村人たち全員が集まっていた。男性も、女性も、子供も、老人も。皆、白い、簡素な麻の上着を肩にかけていた。
「これね」と、里穂が私のためにもう一着用意した白い麻の上着を差し出した。
「祭りの間、これを羽織って」
私は受け取った。麻の布地は柔らかく、頬に触れるとひんやりと心地よかった。肩にかけた瞬間、私の体の輪郭が村人たちの白い群れの中に自然に溶け込んだ気がした。
「これから五日間が祭りなんです」
里穂が優しく説明した。
「初日は『入りの日』。山と村にお祭りの始まりを告げる日。二日目は『静の日』。沈黙の日。三日目は『顕の日』。過去の方々を弔う日。四日目は『招の日』。最も愛する者を山に招く日。そして五日目は『還の日』。みんながそれぞれの還りに立ち会う日」
私は頷きながら聞いていた。
「美咲さんはこのお祭り、初めてですよね」
「はい」
「でも、お祖母様の時からずっと来てくださっていますよ。一年に一度、必ず」
里穂の口調は確信に満ちていた。
「お祖母様の時から来てくださっている」
——その意味が、私にはわかった。水脈の中の、美智子。
——お祖母ちゃんはもう来ているのだ。




