第50話 水面の中で祖母が笑った
ドームの中央にもう一つ奇妙なものがあった。岩盤を誰かが丁寧に削って、円形の、浅い水溜まりが作られていた。直径、二メートルほど。深さはせいぜい、私の足首までだろう。その水面が揺れていた。
風はない。なのに、水面に小さな波紋が絶えず広がっている。私は近づいた。水面に自分の顔が映った。
——いや、私だけではなかった。
私の顔の横にもう一人女性の顔が映っていた。白い髪を肩のあたりで切り揃えた老女。柔らかい目尻に深い皺が寄っている。
——お祖母ちゃん。
私の祖母、相沢美智子の顔だった。私は息を止めた。水面の中の祖母がこちらを見ていた。ゆっくりと頷いた。それから口を動かした。声は聞こえなかった。けれど、唇の動きでわかった。
「ごめんね、美咲」
私はその場に膝をつきそうになった。
「お祖母ちゃん、なぜ」
水面の中の祖母が悲しそうに首を横に振った。そして、もう一度唇を動かした。
「私はね、美咲。どうしても止められなかった。曾祖母も、止められなかった。代々、止めようとして、止められなかった。だからせめて優しい受け入れを用意することにしたの」
私の涙がまた流れ始めた。透明な、無臭の水。
「お祖母ちゃんは私を村に送り出したの?」
「うん」
「優しい場所に行けるように?」
「うん」
「お祖母ちゃんも、いつか来るの?」
水面の中の祖母がふっと微笑んだ。
「もう、来ているよ。ずっとここに」
私は水面に手を伸ばした。指先が水に触れた瞬間、波紋が大きく広がった。祖母の顔が揺れて、散った。




