第43話 血の途絶えた家系
『山田武雄 五十二歳 長男・健治、孫・香織』
孫・香織。私はリュックから祖母の手帳を取り出した。東京の家で見つけた、革表紙の、古い手帳。ページをめくる。
『平成五年六月十六日。山田香織さん、二十二歳。私の代で、何としても止めたかった。でも、ダメだった。香織さんは最も愛らしい笑顔のまま、井戸へ向かった』
——山田香織。
一九九三年。私の祖母が本格的に水見の役を担っていた時代。そして、その「孫・香織」は、おそらく、山田武雄の孫娘。
つまり、山田香織は自分の祖父がここで取られたことを知ったのだ。それで御霊山に来た。三十六年の歳月をまたいで祖父と同じ場所で消えた。山田家の血がこうして、一人ずつ、山に引き取られていった。
そして、私の祖母・美智子が二度、それを見送った。一九五七年(彼女が娘の時、母の傍で)、一九九三年(彼女自身が水見だった時)。二度とも、止められなかった。私はしばらく、その項を見つめていた。トンネルの奥からまた囁き声が聞こえた気がした。
『おいで』
ひとつではなく、幾つもの声。
『こっちだ』
私は立ち上がった。懐中電灯の光が壁を照らした。コンクリートの表面に爪痕が続いていた。けれど、その爪痕はいつの間にか、ある方向を指し示しているように見えた。奥へ。私は囁き声に応えるのではなく、ただ自分の意志で奥へ進むことを決めた。




