表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/76

第37話 壁の内側に残る、爪の痕

「私はここまで」と、美樹が言った。


「美咲ちゃん、本当に入る?」


「はい」


「中で見るものは、たくさんあると思う。でも、何を見ても怖がらないでいいよ。健ちゃんも、他の方々ももう苦しんではいないから」


「美樹さんは、入ったことがあるんですか」


「一度だけ。健ちゃんが亡くなった、その年のお盆に」


美樹はそれ以上は言わなかった。私はリュックを背負い直し、懐中電灯を手に取った。里穂がコンクリートの入り口の前で立ち止まった。


「美咲さん。一つだけ、お願いがあります」


里穂が私の手をしっかりと握った。


「中で、誰かに声をかけられても答えないでください。背中を向けないでください。それから、——絶対に、水を飲まないでください」


里穂は優しい笑顔で、そう言った。


「行ってらっしゃい。私たち、ここで待っています」


私は頷いた。懐中電灯のスイッチを入れ、トンネルの中に足を踏み入れた。最初の数歩はただの暗いコンクリートの通路だった。けれど、五メートルほど進んだ時、私の懐中電灯の光が、壁の異常を捉えた。コンクリートの表面に、無数の小さな傷があった。


最初は自然な経年劣化のひびと思った。けれど、近づいて見ると、それはひびではなかった。


——爪痕だった。


人間の指の爪が、コンクリートを、必死に引っ掻いた痕。それも、ひとつや二つではない。壁の表面が無数の爪痕で覆われていた。ある場所には爪が折れて、まだコンクリートの隙間に刺さったまま残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ