第23話 写っているのは、私ではない
ノートを閉じて、私はもう一度、家の中を見回した。何か、もっと知るべきものがある。そんな予感が胸の奥でざわついていた。祖母の本棚から、一冊の古いアルバムを取り出した。
革張りの、分厚いアルバム。祖母が大切に保管していたものだった。表紙に、薄れた金文字で「相沢家 写真集」と書かれている。ページをめくった。
幼い頃の私と、祖母の写真がたくさんあった。八歳の夏、九歳の夏、十歳の夏。毎年、夏休みに祖母の家を訪ねた、その記録。
——あれ。
ふと、見覚えのない写真があった。私がおそらく十代後半。長い髪をポニーテールにして、登山服を着ている。背景は深い緑の森。私の隣に、もう一人、女性が立っていた。ショートカット。日に焼けた肌。元気そうな笑顔。
私が彼女の肩に手を回している。楽しそうに笑っている。
——誰だろう、この人。
東京の自宅で見つけた、あの写真の女性と同じ人だった。写真の背景には、御霊山が見えた。ページをめくると、もう一枚、二人の写真があった。さらに、もう一枚。私と彼女が若い頃、一緒に何度も御霊山に来ていたのだ。
——なのに、私は覚えていない。
最後の一枚で、私の手が止まった。二人が御霊山の中腹に座って、お弁当を食べている写真。私はカメラに向かって笑っている。隣の女性も、笑っている。写真の右下に、祖母の字で、日付と名前が書かれていた。
『美咲と、結衣ちゃん。平成二十×年、最後の夏』
結衣ちゃん。
——結衣。
その名前を、口の中で形にした。
「ゆ……い……」
最後まで言えた。何かが頭の中で霧散しなかった。代わりに、別の何かがゆっくりと戻ってきた。私には結衣という親友がいたのだ。そして、彼女は今、私のそばにいない。




