第一章「ベイルのように駆け抜けろ」-2-
「よう、面接どうだった?」
応接室をあとにし、慣れない校舎を若干迷子になりつつ、なんとか一階にたどりついたところで、旧友に声をかけられた。
「おい、長野、おまえ──」
「声を荒げんなって。授業中だぞ」
「そういうおまえは、授業はどうしたんだ」
「野球バカの元チームメイトの採用面接が気になって、それどころじゃなくてな。今日は四十分間走にカリキュラムを変更した」
窓の外を見ると、グラウンドを延々生徒たちが周回している。
あいかわらず身勝手なやつだ。
「採用、らしい。来週の月曜から来るようにと言われた」
「そっか、よかったな! これで同僚同士か! 今晩、飲みに行くか」
心底うれしそうな顔をする。
それはそれで悪い気はしないが、
「おまえ、おれに、男子野球部コーチの求人と言ってなかったか?」
「ああ、言ったな」
「ところが、だ。校長の話を聞いてみると、どうも思っていたのと違う。まず、男子、ではない」
「そうか。まあ、百歩ゆずって、よいじゃないか」
「そこは百歩ゆずるとしても、だ。野球部のはずじゃなかったのか」
*求人* 神奈川県立武蔵白石高等学校、女子サッカー部コーチ──。
おれは求人票を長野の目前に叩きつけた。
しかし長野はどこ吹く風だ。
「まあ細かいことはいいんだよ。採用されたって、それだけで充分だろ。コーチであること、に変わりはないじゃんか」
「どこが細かいんだよ。おれ、サッカーのルールなんて一つも知らないんだぞ。そんな人間がコーチをするなんて、できると思うか」
「できる」
長野は断言した。
「人間、為せば成る。チャレンジしないことが問題ではない。目標を下げて、成功することが問題だ。東方学園野球部の魂を忘れてしまったのか、おまえは」
ぐっ、と言葉に詰まる。それを言い出されると弱い。
「今晩、お前の家に行くからな」
長野はそう言って、グラウンドのほうへてくてくと歩いていった。




