第一章「ベイルのように駆け抜けろ」-1-
たしかに、生きていくのに金は必要だ。
働き口を紹介してもらえたらぜひともお願いしたい、とも言った。
でも、なんでこんなことに……。
「坂本六、さん。二七歳。高校を卒業して、四国の独立リーグのチームにご所属だった、と──」
さきほど紹介されたばかりの校長が、経歴書をなめるようにして読んでいる。
そんな、真剣な顔で読むものではないですよ、と言いたくなる。
それはそうだろう。
県立高校を卒業して、その後の経歴は「四国ブレーブス入団」「四国ブレーブス退団」以上。
資格だって「第一種普通免許証」としか書いていない。
校長は、こほん、と空咳をした。
「合格です」
「はい?」
たしかにおれは世間知らずだ。
高校卒業してすぐ、野球 of 独立リーグに所属して、まともにアルバイトの一つもしたことはない。
しかし、さすがにそんなおれでも、こんな簡単に就職面接で採用が決まるとは思っていない。
校長はそんなおれの逡巡などまるで気にした様子はなく。
「長野先生とは、高校野球で同じチームだったと聞きましたが?」
「はい。彼がセンターで、私がショートでした」
「私も昔は少年野球チームに所属していましてね。サードを守っていました」
「はあ、サードですか」
おれは頷くしかない。
「ええ。あの頃は、誰しもサードをやりたがったものです」
校長はうんうん、と勝手に納得して、なんだか満足げに頷いている。
長野先生、か。
かつての高校のクラスメートが、先生、と呼称されていることがなんだかこそばゆいが、今はそれ以上に優先すべきことがあった。
「あの、その長野から口添えをしてもらいましたが、どうやら行き違いがあったようでして」
「行き違い?」
「はい。経歴書をご覧のとおり、私は野球以外にスポーツの経験がありません」
スポーツどころか、と自虐したくなるのを、ぐっと飲み込む。
「今日も──、てっきり、野球部のコーチをお探しと思って、こちらにうかがいました」
「ええ。何もご認識に齟齬はありません」
「でも、こちらの求人は──」
「あなたなら、できると思いますよ」
校長のその言葉はいささか無責任すぎるように思えた。
おれは受け取ったばかりの求人票をあらためて目にする。
*求人* 神奈川県立武蔵白石高等学校、女子サッカー部コーチ──。




