カニバリ…
「上から島を一周して一通り見てきましたが、人が住んでいる気配はありませんでした」
サードの不穏な言葉は的中せず、しばらくたってからガウリスは船に戻ってきた。
「生き物はいたか?何か危険そうだと思うものは?」
「鳥や獣らしき声は聞こえましたのでいると思います。危険なものは…やはり島にいる生き物でしょうか、肉食ではないかと思える唸り声が所々から聞こえてきましたから」
「…」
サードは黙り込んで色々と考える顔付きになっている。
こんなよく分からない雰囲気の中、ガウリスが不気味だといい、それも危険生物がいるであろう島に行かないといけないんだからそういう顔付きになるのも最もだわ。
「…、島に行くなら、船動かすけど」
アレンが伺いを立てるように聞くとサードは頷く。
「行かねえといけねえからな、何かしら脱出の手がかりがあるかもしれねえし…」
そう言いながらもサードはあんまり乗り気じゃない雰囲気で答える。
それからはまるで死地へ向かうように無言のまま島へ向かい、沖に流されない程度に浜に船を乗り上げてからそろそろと船を全員で降りてみた。
とてもきめ細かい白い砂。踏みしめるとキュッキュッとかすかに音がする。
振り返ると淡い水色の波が打ち寄せて、もっと奥に目を向けるほどにグラデーションで濃い青へと変わっていく。
「…こんな状況じゃなかったら、すごく良い景色ね…。泳ぎたくなるくらい」
それでもこんなに南国の島みたいな開放的な場所なのに、一切も泳ぐ気にもならない。はしゃぐ気にもならない。
だって未だに何かに見られているような圧を感じるんだもの、今すぐにでも何かが起きそうな感覚がして、ずっと落ち着かないまま。
「そういやガウリス、この島ってどれくらい大きかった?あの山の向こうにも島って広がってる?」
アレンはこの島の奥にそびえたつ山を指さし聞くと、ガウリスは首を横に振る。
「この島は円形状になっていて、あの山の裏は断崖になっています。大きさは…少々言い表しずらいですが、周囲をグルッと一周するのに十分かそれくらいかかったと思います」
アレンはなるほどと頷く。
「じゃあ一周歩いて何日もかかるような島でもないんだな」
「けど何が居るか分からないから不気味よね」
島に到着してから、ずっと鳥の声が聞こえてきている。あんまり元の世界では聞かないような鳥の鳴き声があちこちから。
サードも森の方をみて少し黙り込んで、ヒズに視線を向けた。
「おいリビウス」
「ん?」
ヒズの顔がヒュッと落ち着かなそうなリビウスに変わる。
「お前こっから脱出できそうな場所とか分かんねえか」
「…。分かんない」
「海でもこの島の中でもいい、とにかく脱出できそうな場所が一つでもねえか」
「…」
リビウスは黙ってサードを見て、グスグスと泣き出した。
「そんなこと言われたって、俺分かんないもん…」
そのままリビウスの顔がヒュッとヒズの顔に戻り、少ししてからマイレージの顔にヒュッと変わる。
「前もあったんだ、こんなことが」
「こんなこと、ですか?」
ガウリスが聞き返すとマイレージは頷いて、
「訳わかんねえモンスター…なのか?未だにあれが何だったのか分かんねえが、まぁモンスターと戦ってる途中でよく分かんねえ場所に閉じ込められたんだ。どこをどう歩いても前も後ろも上も下もねえ空中に浮いてるような場所で、リビウスでも脱出できる場所が見つけられなかった」
リビウスが脱出できない場所?それって今と同じ状況じゃないの。
「だが結局は脱出できたんだろ?どうやって脱出したんだよ」
「インラスがやたらに聖剣であちこち攻撃しまくってたら偶然モンスターに攻撃が当たって、その場所から逃げられたんだ」
「なんだ、ただのラッキーまぐれかよ…」
サードは聖剣の柄を何度か叩く。その行動に同じことをするのかと思いきや、抜こうとはしない。
「聖剣使わないの?」
アレンも気になったのか聞くとサードは何言ってんだこいつ、みたいな目で見返し、
「マイレージたちの場合は敵が近場にいたからどうにでもなった。だが今回こんなことを引き起こした敵ってのはゾルゲだぜ?あの狡猾で陰険な野郎がずっと俺らの近くに留まっているわけねえだろ」
そう言いながらサードは頭をガシガシかいて、
「クッソ、ってことはここはイルルも来れねえ、リビウスでも脱出の手がかりも得られねえ場所ってことか…」
とりあえず島の様子を軽く確認した私たちは一旦船に戻り、本格的にこれからについて話し合う。
まず一番に決まったのは一人で島の中を行動しないこと。
ただしヒズたちは数人まとまってる状態だから別。いざとなればベルーノはヒズから分離して単体で行動できるのが分かったから、ヒズたちの身によっぽどのことがあればベルーノが私たちに伝えに来ることもできるし。
そして日中は少しずつあちこちを探索して、夜は必ず船に戻ること。
探索する中で起きた出来事、見つけたものはどんなものでも全員に共有すること。
「ついでに道すがらで食えるもんがあるかどうかの確認もするぞ。鳥の声が聞こえるから確実に鶏肉は食える。こんな島なら果物もあるし周りも海だから魚も獲れるはずだ」
するとアレンはちょっとホッとしたように呟いた。
「とりあえず食べ物はかなり買い込んでストックしてるから、そこは割と余裕あって安心だな。飲み水はエリーが要るから大丈夫だし」
そう、レンナからもらったリーヴァプネブマの力で水を出現させられるから、飲み水は私が居ればどうにかなる。
ずっとリーヴァプネブマで出した水は飲んでもいいのかどうなのかと悩んでいたのよね。一応攻撃魔法用に出すものだから飲んだら口の中で水が爆発するんじゃないかなとか思ってて。
それでもある時自分の飲み水が切れてしまって、恐る恐る口に入れてみたら口の中で爆発することもなく普通に飲めた。
何よりリーヴァプネブマの水は山の湧き水と同じくらいひんやり冷たく美味しくて、それが分かって以降、喉が渇くと丸い水をプルプル出現させては口にもぐっと入れて飲み続けている。
それでついこの前、水が無くなったからどこかで水を買わないといけないと皆が話し合っている時に、
「これ飲めるけど、どう?」
と勧めて以降、今では皆リーヴァプネブマの水を飲むようになった。あと、
「それが飲めることを先に言え!今までずっと俺らが水に金払ってたのてめえも見て知ってただろ!」
ってサードに怒られた。
そんなことを思い出しているとサードは神妙な顔で、
「まぁな。水はエリーが居ればいいとして、戻る方法見つける前に船の食料が尽きる可能性もある。食えるもんは片っ端から集めるぞ」
「…そんな船のストック尽きるくらいここに居ることになるかなぁ。その前に何とかなるんじゃね?」
何ともお気楽な言葉に呆れたのか、ナディムが軽く突っこむ。
「深く考え込まないのは結構だが、こういう時は一番最悪な事態を考えて行動しないといけないよ。できることは全てやるに限るだろう?僕みたいな魔族と違って人間は食べ物が無ければ十日もしないで死ぬんだから」
それを聞いていたサードは…何を考えているのか分からない表情になったあと、ゆっくりと口を開いた。
「…俺の居た世界で国同士の戦してる時、籠城してる城へ敵対してる軍が食料を届かないようにした武将が居てなあ。すごかったらしいぞ、あまりに食いもんがなくて飢えすぎて、人が死んだらそいつの肉を食おうと人が我先に群がったそうだ」
「…」
その話に皆の顔が一気に強ばる。それと正反対に、サードは滅多にすることのない良い顔で笑った。
「飯が無くなった後で最後まで生き残んの、誰なんだろうなあ?ハハ」
「…」
私たちは何も言わない。でもサードはまとめ上げるように呟く。
「ま、どうであれガウリスとナディムとカーミは最後の方まで残るだろうな。神に近い存在と魔族なんだからそうそう簡単に死にゃあしねえだろうし。おっとリビウス、お前は飯が無くても平気か?」
するとナディムの顔がヒュッとリビウスに変わって…ものすごくオドオドと聞いた。
「そこまでお腹空いたことないから分かんないけど…。サード、俺のこと、食べるの…?」
サードはあっけらかんと返す。
「馬鹿かよ、人の肉食うほど飢える前に脱出する方法探すんだよ、肉を食うのは最後の最後だ」
その言葉にすぐさまアレンが突っ込む。
「おおい!それ最終的に食うって言ってるのと同じじゃん!?」
「…ふっ」
サードは悪い顔で笑う。
でもすぐさま表情を元に戻し、
「それが嫌なら全力で元の場所に戻る方法を探すんだよ。俺だっててめえらの食料になりたくねえし望んで食いたくもねえ」
何て空恐ろしいことを言うのこいつ。
…でもそうよね、そんな殺伐とした状況にしないためにも、全力でここから脱出する方法を探すしかないんだわ…!
「じゃあこれからそれぞれ島の中を探索するってことね?」
「おう、すぐやんないといけないな!」
アレンはサードの空恐ろしい話で俄然やる気を出して真っ先にガタッと椅子から立ち上がる。
「ではどう動きましょうか」
ガウリスの言葉にサードは一瞬考え、
「アレンとエリー、俺とガウリスで分かれる。俺らは森の奥に入るからアレンとエリーは浜辺から手前の森周辺を見て回って、危険があればすぐ船に戻れ。ヒズたちは行けるところまで行ってみろ」
「ちょっとサードさん、俺はぁ?」
カーミが自分を指さし訴えると、サードはチラと見てすぐ目を逸らした。
「てめえは適当にその辺探っとけ」
その吐き捨てる様にカーミは身を引いて両手で口を押さえ、「うわ、俺の扱い雑すぎ?」とふざけて言いつつ、
「つーか俺、こういう初見の場所でいっつも情報収集やってたんだからさあ、もうちょっと頼りにしてもいいんじゃねえの?」
カーミの言葉にサードは鼻で笑い、
「人間の住む世界ならともかく、こんなゾルゲに押し込められた訳わかんねえ場所でてめえに何ができるんだよ?ネズミを操れるとか言っといてそれも全部ゾルゲに殺されたじゃねえか」
カーミはニヤニヤッと笑い、
「分かってないなぁサードさん。肉食の獣がいるってことは食べられる側の小動物もいるってことだよ?その中で爆発的に数が増えて食物連鎖の根っこにいるネズミなんてその辺にいるに決まってるじゃん」
「え、じゃあもしかしてこの島にネズミいる?だったらすげぇ頼りになる」
アレンの言葉にカーミは腕を組んで自慢げにふんぞり返り、
「それは今から見てみるけどいるに決まってるでしょ。捕食者がいれば捕食される側も確実にいるもんだし。ともかくネズミがいればネズミの視界ジャックして島のあちこち探れるし、人型にしてあれこれ動かせるんだから頼りにしといてよ。さーてと、ネズミ、ネズミっと…」
そう言いながらカーミは腕を組んだままボンヤリ空中を眺めるように視線を上げる。そしてすぐさま、「お、いた」と声を漏らした。
「ほら、やっぱいたよネズミ!ここ山かな?山の中の…うあっ!?」
喜びの声からいきなり驚きの声に変わってカーミがガタッと椅子の上で跳ね上がったから、私の肩もビクッと跳ね上がる。
「何よいきなり」
「いや…爆発した」
「何が」
サードが聞くとカーミは頭をかしげて、
「多分…ネズミ自身が爆発した。ネズミの視界ジャックしたから辺り見ようとしたらいきなりボンッてでかい音がして肉片が辺りに飛び散ってさ。あ~今のはびっくりしたぁ~」
ビックリしたって、こっちのほうがビックリしたわよ。
それでもどういうこと?視界を奪ったネズミが爆発したって…。
サードも少し考え込む様子を見せてから、言い含めるように私たちに視線を向けてきた。
「どうやらここにいる獣は全部が全部普通の生き物じゃねえようだな。いいか、ネズミだの虫みてえな小せえもんでも目の前に現れるもんは全部モンスターだと思え。ここはダンジョンと同レベルで危険な所だって肝に銘じて慎重に探索する」
その言葉に私たちは、もちろんと大きく頷いた。
私は何かしらの危機が訪れ食糧難になった世界線を想定し、うちの猫に「何かあった時はなぁ、私の肉食ってもいいぞ」と伝えたところ、聞く価値もない話だと判断され完全に無視されました。耳すらこっちに向けてくれない。




