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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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海の魔族

私たちは安全を第一に島の探索に乗り出した。

サードとガウリスは獣道もない森の奥へと消えていき、ヒズたちは船に常設されていた脱出用の小船に乗って島の周辺を探りにいき、カーミは視界ジャックしたら爆発したネズミが気になるからと島の一番奥に鎮座している山へと向かった。


で、残りの私とアレンはサードに言いつけられて浜辺と浜辺付近の森の辺りを捜索。


「つっても浜辺とその近くの森だけじゃ探すものもねえな。漂流物の木もゴミもなさそうだし」


アレンの言う通り、見晴らしのいい浜辺はいくら歩いてもゴミ一つない綺麗な白いビーチが続く。

とはいえやっぱり異様なものは異様なのに変わりない。


「大体浜辺にいるはずのフナムシもカニもいないじゃない、おかしいわよね?」


「だなぁ、海に魚はいると思うけどこっからじゃよく分からないし…。岩場探してみようか、そこになら魚とか確実にいるはずだから」


アレンの言葉に砂浜をズンズン歩いて行って岩場を探しに行く。

メインビーチみたいな砂浜を離れてほんの少し岩が多くなっている所にアレンは真っすぐ向かっていき、手馴れた足取りで岩場へ向かう。


「大丈夫?」


アレンは私に手を伸ばしてきて、お礼を言いながらその手を掴んで岩と岩の隙間に足を滑らせないよう気をつけながら進んだ。


「大体こういう岩場にくぼみがあって、満潮の時にやってきて取り残される魚とかいるんだぜ」


足を滑らせないかと私を確認しながら手を引くアレンは足下の岩場を指さしながら説明して、


「もっと海の近くにいけば…」


そこでアレンの声がスッと止まって、ずっと足元を見ていた私は顔を上げた。そして海へ視線を向けるアレンに気づき、その視線の先へと私も見る。


思わず目を見開いた。


人がいる。海間近の岩場に座っていて海を眺めている。

小柄でよく日に焼けている、上半身裸のお爺さん…。


「ちょ、すみませーん!」


アレンが近づこうとしているのを見て、慌てて繋いでいる手を強く引っ張って止める。


「待って、もしかしたらモンスターの類いかもしれないじゃないの、いきなり近づくのは危険よ!せめてここから声をかけて反応を見てからのほうがいいわ」


アレンもそれはそうだと思ったのかそこで立ち止まり、大きい声で、


「おーーーい、お爺さーん!」


と声をかけた。


隣にいても耳にキンとなるくらいの声だからお爺さんにはしっかり聞こえているはずと思いきや、お爺さんの耳が遠いのか全く反応しない。


「すみませーーーーん!」


私もアレンと同じように声をかけるとアレンも、


「おーーーーい、俺の声が聞こえないのーーーー!?」


とさっきより大きい声を出す。


そこでようやく私たちの声が聞こえたのか、お爺さんは緩慢な動きでゆっくり首だけ振り返った。


「えー?」


見る限り顔も普通に人間のお爺さんっぽいわ。

申し訳程度の白髪が乗っているくらいの頭、ショボショボと細まっている目としぼんだ口…。


「あのー、ちょっといいー?」


アレンが声をかけるとお爺さんはもう少しこっちに体をむけ耳に手を当て、


「えー?」


と言ってくる。

耳が遠いのか、それとも岩場に打ち付けるザザザザンッという波の音を間近で浴びているから離れたこっちの声が聞こえないのか…。


アレンはその様子を見て、私をチラと見ながら聞いてくる。


「…もうちょっと近寄ったほうがいいかな」


「でも…」


チラとお爺さんを見てみる。


お爺さんはそこから動く気配はない。でも私たちの会話を聞こうとしているのか、体を半分こっちに向けてジッと見てきている。


「…もう少しだけ、近づいてみましょうか」


私とアレンは頷いて、ほんの少しお爺さんに近づいていく。


「あのー」


「えー?」


まだ聞き取れないようだからう少し近寄る。


「あのお爺さん」


「んあー?」


どんどん近寄って、残り三メートルぐらいの距離になってきた。

罠じゃないかという考えもチラと浮かんできているけど、それでも近づけば近づくほどに人間としか思えないわ。


「お爺さーん」


アレンが声をかけるとお爺さんにようやく声がハッキリ届いたのか、


「おーう」


と頷いた。アレンはホッとして、


「あのさお爺さん…」


と声をかけると、お爺さんの背後の海からズルゥッと突起状の何かが出てきた。


「!?」


突起状の何かをみて、アレンはハッとした。


「クラーケンの足じゃね!?海辺で売られてたイカの足とどっか似てる!」


「ク、クラーケン!?」


クラーケンって、めったに会わないけど遭ったとしたらかなり危険だっていうやつじゃないの!


まさかクラーケンが無害そうな人間の姿に擬態して、近寄ってきたところを襲って食べようと…!?罠だったんだわ、声が聞こえないふりをしておびき寄せて襲うための罠!


驚いている間にも周囲の岩場を一斉に覆ってしまいそうなほどの太く長い足が海からズルズルと這い出してくる。


と、クラーケンの足はお爺さんの体をガッと捉え、空中へ高く持ち上げた。


「えっ」


ウネウネ動く足はお爺さんをどんどん上に持ちあげてギリギリと締め上げているように見える。


「もしかして…襲われてる?」


じゃあのお爺さんはクラーケンの擬態とかじゃなくて、本当にただのお爺さん?

それによく聞いたら「うあー」って悲鳴に近い声が聞こえてくる。


と、別の足が私たちへとものすごい迫力でズズズズズッと向かってきた。


その足をみて瞬間的にアーウェルサを発動したからクラーケンの足は私をスカッと通り抜け、すぐ後ろにいたアレンは「うわぁああ!」と叫ぶと身体能力向上魔法を自然と発動したらしく、斜め上に大きくジャンプをしてすんでのところで足を避けた。


とりあえずアレンもギリ避けられる。足が巨大すぎて迫ってくるときの圧迫感はものすごいけどそこまでスピードがあるわけでもない。

それなら捕まって上に持ちあげられているお爺さんの救出を優先したほうがいい!


お爺さんを捕えている足に向かって風をビュンッと放つ。

放たれた風はクラーケンの足をスパンッと綺麗に切り裂き、その足でがんじがらめにされた状態でお爺さんは高いところから落下してくる。


「アレン、キャッチしてーー!」


「うわあああお爺さんがあぶなーい!」


アレンは絶叫しながら猛スピードでお爺さんが落下してくるポイントにひとっ飛びでたどり着き、クラーケンの足ごとガッと無事にキャッチした。


「ナイス!アレン…」


「うへええ、これヌルヌルするやだぁーーー!」


それでもクラーケンの触り心地がイヤだったのかアレンはキャッチ直後すぐさまボロッと取り落とし、お爺さんは岩場に頭からゴッと落ちた。


「アレン何してるの、危ないでしょ!」


「だってこれヌルヌルする…」


「いいからアレンはお爺さんを安全なところに連れて行って!私が戦うから!」


「うへええ…」


アレンはイヤそうながらクラーケンの足からお爺さんを救出しようとして、それでもよほどガッチリとくっついていて引きはがすのは無理と踏んだのか、クラーケンの足ごとお爺さんを引きずり岩場から離れていく。


二人が離れていくのを見送り、私はクラーケンを見据える。


足を一本切ったというのに全く攻撃が効いているそぶりはなく、とにかく私を絡め取ろうとしているのか足がどこまでも向かってくる。


とりあえずアーウェルサで直接攻撃は全部避けられる。だから制限時間の十五分…、ううん、余裕をもって十分内でクラーケンから…。


「逃げきる!」


だってそうじゃない?

今はお爺さんの救出優先、アレンがお爺さんを連れて安全な所まで逃げたのを確認したら私もさっさとやり過ごして逃げるわ!


「ぎゃーーーー!」


「!?」


ギョッと振り向く。


振り向いた先では、アレンの片足がズッポリと岩と岩の間に深く落ちているのが見えた。


「何やってるのアレーン!」


「ハマっちゃった!足が抜けないエリー――!」


そのアレンの声が聞こえたかのように、クラーケンの足はアレンとお爺さんのいるほうへズルズルと伸びていく。しかも気づけば私たちを左右から覆い囲むかのように…!


「…!」


左右から迫る足に向かい、さっきお爺さんを救出した時と同じように足を切ろうと風をズパンッと放った。

足はあちこちに千切れて飛んでいく。なのに海からはどこまでも足がズルズルととめどなくせり出てきて止まらないし、その足も次第に巨木かと錯覚するぐらいどんどんと太くなっていく。


っていうより足の先端部分でこれくらいなら、本体ってどれくらいの大きさなの?この大きさの足から…十分内に逃げきれる…!?


チラとアレンたちを見る。


アレンは足がまだ抜けなくてもがいている。お爺さんもクラーケンの足が巻き付いたままで動けない。

このまま全員逃げるのは無理だわ、そうなればやり過ごして逃げるのも無理、じゃあここで倒さないと!


魔法を発動する。すると海がザザザザと動き出した。


私は杖を向け、岩場から引き離そうとクラーケンをッドン、と沖のほうへ思いっきり押した。

迫る足はわずかに海へ引いたかに見えたけれど、その足はガッチリ岩場に張り付いて全く動かない。


「…このおおお!」


もっと力を放ち海の奥へ弾き飛ばすかの如く海の水を押し続ける。それでもその巨木のような足についているイボイボ…吸盤がガッチリと岩場に張り付いていて全く動かない。


さっさと諦めて流されなさいよ!


イライラしながらもっと力を込め沖へ流そうとする。

すると海の水が段々と逆立つように一直線に割れてきて、クラーケンの姿の一部がほんの少し見えてきた。


「…ん?」


船旅に出る中でクラーケンが一番危険らしいから、モンスター辞典で一応調べておいた。それにはこう書いていたわ。


『クラーケン


イカが巨大化したモンスター。その大きさは船を足で絡め取り海へ沈めるほど。船を沈める目的は乗船した者を食べるためではなく船を獲物と勘違いしてのことだろうというのが現在では一般的な意見である。一度でもクラーケンが出没した海域を通るのであれば、上級レベルの魔道士を同行させたうえで正面から戦わずやりすごして逃げるのをおすすめする。クラーケンの体は普段白濁した白色であるが、攻撃時には赤紫へと変色する。もし不運なことにクラーケンが出現したとしてもまずは体の色を確認してほしい。運良くその体が白いままならばすぐさま港へ引き返すのがいいだろう。


攻撃…十本ある足で船をからめとり海へ引きずり込む

防御…非常に弾力のある体であるため中級レベルの炎の魔法であれ効果は薄い。それでも通常攻撃、魔法攻撃どちらにせよ有効

弱点…特になし

補足…水魔法を使ったら嫌がるそぶりを見せたという報告を受けたが、それ以上の詳しい調査ができず真偽不明である。一か八か水魔法を使ってみるのも手かもしれないが、素直に上級魔道士を同行させその指示に従いその場から素早く離れるのをおすすめしたい』


クラーケンの体は普段白濁した白色、攻撃時には赤紫へと変色…。


なのに目の前のクラーケンの体の色…白っぽくもないし赤紫っぽくもなく、濁った赤っぽい。それにこの足、モンスター辞典に描かれているイラストと何か違うくない?

なんかこう、足の吸盤の大きさとか並びとか形とか、同じようで何か違うような…。


「あっ!ごめんそれイカじゃなくてタコかも!」


足を岩から引き抜こうとしながらアレンが何か言ってきて、聞き返した。


「タコ!?何それ怖いやつ?」


「漁師の間じゃ『海の魔族』って呼ばれてる!多分それタコが巨大化したモンスターだ!」


海の…魔族?


「それ完全にヤバいやつじゃないのー!」


魔族と名がつけられる相手なら確実にヤバいわ。足の挟まっているアレンと動けないお爺さんを守りながら魔族レベルのモノと戦うなんて無理!


なのにクラーケンもといタコときたら足を切っても動じない、どんなに力を込めても岩場に張り付いてビクとも動かない、それどころか沖へ押し戻そうとする手を止めた今、岩場にビタビタと吸盤をはりつけて岩場にせりあがって来る始末。

もしかして陸地に乗り出してきて攻撃しようとでもしているの?この大きさのものが!?


ともかく足がハマっているアレンの元までにじり下がる。


けどどうしよう、魔族レベルの力を持つタコがどんな攻撃してくるのか全く分からない。


とにかく風を放ってどこまでも切り裂く?

それともクラーケンは水を嫌がったって書いてたからリーヴァプネブマで水の攻撃をする?

でも魔族レベルのタコに水魔法が効くかも分からないわ。

じゃあオルケーノプネブマでタコの体を爆発させて…、でも本体は水の中にあるのよね、水の中での火山の爆発って効果あるの?どうなの?


色々考えている間にもタコの足がのたうつように迫ってきて、半ばパニック状態になってきて、タコに手を向けたまま一瞬頭の中が真っ白になった。


そこでフッと思い出す。


エディンム地下墳墓でナディムがヒズに使っていた魔法。


攻撃態勢のベルーノからヒズを遠ざけようとしてヒズを浮かせたあの魔法、あれってもしかして黒魔術だったんじゃ?

だって自前の弓矢を出現させる攻撃方法の時には呪文なんて唱えていなかったもの。なのにわざわざ呪文を唱えたってことは、きっと黒魔術だったから…じゃない?


だったらできる、中級レベルのカーテンすらすぐできたんだもの。ナディムがヒズを浮かせたようにタコを空中に浮かせて、遠くに飛ばす。それも吸盤が張り付いている岩ごと全て!


確かあの魔術の呪文は…。


「ラナヤーーーーーム!」


絶叫しながらナディムがヒズを浮かせた時のことを思い出しながら杖を向けた。


するとフワッとタコの赤い足、それと海に隠れていたダルダルの赤っぽい体が海面に軽く浮き出たかと思ったその瞬間。


巨大なその足と体が、岩場ごとズドンッと目の前から消えていった。


「え?」


見上げると周囲の岩をすべて足につけたまま、遙か上空までタコが高く高く飛んでいっている。


上空まで飛んでいって小指の爪よりも小さい点ほどの大きさになったタコは…だんだんと…落下してきている?

…落下してきているわね!?


「危ない!早く逃げないと…!」


アレンの足が挟まっている岩と岩の隙間を私の魔法でゴリゴリと広げると、隙間から脱出したアレンは私の手を引っ張り、


「うわあああ、やっべええ」


と私とタコの足に縛られているお爺さんを抱えて船がある砂浜へとダッシュする。


そうしているうちにヒュルル…と上空からタコが落下してくる音が響いてくる。


アレンはリビウス並みのスピードで「ヒィィ」と叫びながら走り続け、船の近くまでたどり着くかどうかくらいの時にタコがズドドドーン!と海へ落下した音が響いてきた。

同時に地面も大きく揺れて、水しぶきが上から雨のようにザァァ…と降りそそいでくる。


そこで立ち止まり、アレンはタコのいた岩場のほうを振り向いた。


「…倒したのかなぁ」


肩で息をしながら呟くアレンに、私は軽く返す。


「それはこっからじゃ分からないわ」


もし生きていればあの岩場からこっちの砂浜に来てしまうかもしれない。そうなれば今みたいに攻撃をしないと…。


海辺を警戒し、そこでふと気づいた。


アレンはタコの足をしっかりと小脇に抱えているけれど、切り離されたタコの足はようやく緩んできたのかダランと垂れ下がっていて、そこにお爺さんの姿はない。


「アレン、お爺さん…!」


タコの足を指さしアレンに詰め寄ると、アレンは「ん?」と小脇を見て、


「はっ!?」


と顔色を変えてタコの足を落とし、自分の腰回りをパタパタ叩いて息をのむ。


「落としちゃった!?」


「財布みたいに言うんじゃないわよ!引き戻して探しに…」


と、砂浜から森へ向かう位置ぐらいで、ヨッコイヨッコイと動いているお爺さんの姿がみえた。


「あ、良かったお爺さん…!」


小走りに駆け寄っていこうとすると、お爺さんは私たちのほうへ顔を向け、手を軽く上げてから森の中へヨッコイヨッコイ入っていく。


「ちょ、お爺さん!森の中危ないよー!」


アレンも慌てて追いかけ、私もその追いかけ森の中へと入っていったけど…お爺さんはもうどこにも居なかった。

イカって真水につけたら体の組織が壊れるから真水が弱点なんだって。まぁイカに襲われる状況はそうそうないからイカの弱点知っても役立つ時はきっと来ない。


エリー

「それにしても海に『海の魔族』なんて肩書をもつ不穏な生き物がいただなんて…。タコってどんな攻撃をしてくるの?魔族みたいに独自の攻撃方法持ってるとか?」


アレン

「え?ただ単に見た目キモいからそう言ってるだけでタコが魔族みたいに強いわけじゃないよ」


エリー

「(何それ紛らわしい…!)」(イラッ)

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