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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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春過すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山

砂浜に乗り上げた状態で甲板にいた私たち。


ともかくアレンは、


「俺救難信号出してくる。それとマップで今どこかも調べてみる」


と言いながら甲板から船内に入って行って、私はなおも周囲を見渡す。


夏のような雲一つない青い空、青い海、白い砂浜、緑色の木々、そして木々の奥にそびえたっている高い山…。


見た感じ南の島のような自然豊かな風景。なのに何か妙な違和感を感じる。


ここに来てから妙に嫌な感じがする。圧迫感を感じるというか…。


落ち着かない様子を見たからか、サードが隣に並んで声をかけてきた。


「どうした」


「何か…ここ、変な感じしない?圧迫感があるっていうか」


見るとリビウスも落ち着かなそうに辺りをキョロキョロして「何かここやだ…」と言っていて、ガウリスも落ち着かないような顔つきで辺りを見渡している。


「リビウスだけじゃなくてガウリスも何か感じるのね?」


「…見られている」


「え?」


ガウリスは眉間にしわを寄せながら私を真っすぐ見る。


「ジッと見られている。そんな感覚がして…」


見られている…?


でもそう言われるとなんだか納得できる。


確かにそんな感じなのよ。近くから知らない人にジロジロシゲシゲ遠慮無く見られているような、そんな圧と落ち着かない感じが。


私たちが顔を見合わせていると、アレンが船の中からマップを振り回しズドドドドと猛ダッシュで走ってきた。


「おいちょっとヤベえ!救難信号だしてもどこも反応ないし、現在地も分かんないし、何よりこれ見てくれよ、これ!」


アレンはエディンム地下墳墓で手に入れた例のマップ…ディレクをバッと広げた。


ディレクは現在地から周囲のマップが自動的に映る物。


いつもなら銅版画で描かれているような地図が映っているはずなのに…紙は真っ白。


まるでただの一枚の紙だわ。

そしていつもマップの中心にあるはずの現在地点を示す赤い点は、止まることなくグルグルと回転しながら紙の中を動き続けている。まるでここはどこだと激しく頭を動かし混乱しているような、そんな動きで。


「…」


皆で顔を見合わせ、サードがすぐさま指示を出してくる。


「ここから脱出する!エリー、砂動かして船を沖に出せ!」


サードの言葉にすぐさま頷いて、私は砂をズズズズ…と動かし船をグルリと回転させてそのまま海に乗り出た。それを確認するとアレンはすぐさま操縦室に駆けていく。


「もう少し船を沖に出せ、まだ船底が砂についてるはずだ」


サードの指示に従い、私は船をスルスルと沖へと動かし続ける。


「けどここ何なんだろ?」


カーミが周囲をキョロキョロしながら言うとサードは厳しい表情をし、


「魔力に強いエリー、色々と見えるガウリス、野生の勘の強いリビウスがこんだけ嫌そうにしてんだからヤベエ場所に決まってんだろ。ともかくさっさとここから離れるのが先決だ、念のため何かあれば全員ですぐ攻撃できるように気ぃ張っとけ」


次々と指示を出しながらサードは自分の腕をさすった。


「つーかおめえらだけじゃねえ、俺にも分かる、やっぱここはおかしい。何かに見つかってそのまま見られてるような気がする」


サードは周囲にいる人の気配とか、視線はすぐ分かる。ロドディアスの古城でも水に紛れていたローディの視線をずっと感じ取っていたもの。…あぁ、カーミくらいの腕前の人を抜かして。


でもだとしたらそういうことじゃない?


「私たちの周囲に誰かいるってこと?」


聞いてみるとサードは辺りをキョロキョロと見て、顔をしかめ首を横に振る。


「視線は感じる、だがどこからか分からねえ」


「…」


サードの言葉を聞いて少なからずゾッとして、私は身震いした。


と、そこで前をフッとみた私は驚きのあまりサードの腕を思わずバシバシと力加減も忘れて叩く。


「ちょ、ちょっとサード!」


いつもだったらサードが「んだこの野郎!」とイラッとした声と顔を私に向けている所。


でもサードも言葉もなく船の向かう方向を見ている。そしてマイレージが操縦席にいるアレンに怒鳴りつけた。


「おいおいおい、どうして島に向かってんだ!?アレン、しっかりしろよ!」


アレンは向かう先に見える島に「えっ」と驚いた顔をして、船をゆっくりUターンさせて沖に進んで行く。


「…」


何となく皆無言で、黙って進んで行く先を見るけど…進む向こうに見えてきたのは、さっきまで背を向けていたはずのあの島…。


操縦席のアレンは心底「ええ、何で?」みたいな顔をして、今度はUターンせず真横に逸れて進んで行く。


それでもその先に見えるのはあの島…。


アレンは何度も進む方向を変えて進む。でも先に見えてくるのは例の島。


それを何度も繰り返すとアレンは操縦席から離れ、甲板にいる私たちの元へやってきた。


「やっべ意味分かんねえ。進んだ島が見えなくなったと思ったら島が現れ続けて怖いんだけど」


サードは渋い顔で深く、深く息を吐いてから島を見た。


「…島に向かうしかねえか…?」


「…行くの?」


島に向かうというサードの言葉に思わずイヤな気持ち全開で聞いてしまうと、それは嫌そうに顔をしかめながらサードは私を見返してくる。


「この訳わかんねえ状態から脱出できるヒントがあの島しかねえんだよ。どこにどう行ったって現れ続けんだ、上陸するしかねえんじゃねえの」


「…」


一瞬、船の上が静寂に包まれた。そこでアレンはガウリスに伺いを立てるように恐る恐ると聞いている。


「なぁガウリス、あの島…お化けとかいる感じ…?」


「…」


眉を軽くひそめながら口を引き結び何もいわず見返すだけのガウリスに、アレンはガッと掴みかかって激しく揺らす。


「いないって言ってくれよぉおお!」


まぁ激しく揺らしたってガウリスはびくとも動きやしないけど、何といったらいいものか、みたいな雰囲気で島を眺め、


「ここからでは分かりません。ですが…」


「ですが…?」


聞き返すアレンに、ガウリスは言葉のチョイスに迷っているのかちょっと考え込んで…ポツリと漏らした。


「不気味です」


「…」


たった一言。


それでも私の背中にはソワッと鳥肌が立って、船の上はまた静寂に包まれる。


島に行くしかねえだろって言っていたサードもその言葉を聞いてやっぱり島に行くのはよそうかと考えを巡らせる顔つきになって鼻で息をついているわ。いつもだったら一度決めたことはそうそう簡単に翻すことがないのに。


結局行くのかしらどうなのかしらとサードの判断を待っていると、サードは私にグルリと振り返った。


「おいエリー、イルル呼べ」


あ。思えばイルルは呼べばすぐに来れるんだから、イルルに聞けばここから脱出する方法が分かるかも。


私はすぐさま指輪に声をかける。


「イルル!」


すると目の前にイルルが「へえ」と…。……。あれ?


キョロキョロしているとアレンが後ろから少し強ばった声でそっと聞いてくる。


「…もしかして、来ない?」


いやいやいや、嘘でしょ!?


指輪をブンブン振り回し、


「イルル、イルル、イルルー、イルルーー!」


何度も呼びかけ続けてみてもイルルはさっぱり現れない。思わずバッとサードを見る。


「もしかしてイルル、またサリーに捕まったんじゃ…!」


「さすがに魔界の貴族令嬢がこんな頻繁に地上に来るわけねえだろ」


「でもサリーはサードのことをお婿さんにしようと狙っているのよ、イルルのこともあれこれ利用しようとしているかもしれないじゃない」


「俺を狙ってるかどうかは今どうだっていいんだよ、むしろ狙ってるならこの状況どうにかしに来いってんだ、使えねえ」


「…」


そりゃサードからしてみれば体の関係になれないサリーと恋愛を発展させるつもりはないのかもしれない。

だからといって自分に好意を寄せる女性相手であれ利用することしか考え無いのかと思うと呆れが起きて、パニック状態がスン…と収まった。


うん、確信した。やっぱりサードは結婚に向いてない。


すると後ろでカーミがクックッと笑いを押し殺しように笑ってから、


「でも分かったじゃん?ここはイルルさんでも来れない絶望的に元の場所から切り離された空間だってことがさ」


「絶望的…!?」


スン…、と落ち着いたのもつかの間。ズガーンッとショックを受けているとサードは島を見据えながら、


「つーことはここはあれか。あのネストとやらのいう俺らにとって都合の悪いところってことか?薄皮一枚向こうの別の世界。…いや、イルルもそうそう来れねえ所だってなら分厚い壁の向こうってか?」


「そういやゾルゲがいた所も探すの苦労してたもんな」


サードの言葉にアレンが付け足して、私は引きつったように呟く。


「じゃあイルルが何かおかしいと思って私たちを探そうにも、運がよくないと見つけられないってこと?ゾルゲを見つけたのもたまたまおかしい場所を見つけたからって言っていたし」


サードは私の言葉を聞いて少し考えてからヒズに視線を向けた。


「おいベルーノ」


ヒズの顔がヒュッとベルーノに変わる。


「お前の言葉の魔法でどうにかならねえか、『ここから元の場所に戻る』って言えば」


するとベルーノはどうだろう、とかすかに首を傾けながらも口を開いた。


「全員でこの場所から元の場所へ戻る」


その言葉が言い終わるとすぐに私たちの周りがバリバリバリと音を立ていく。


まるで電流が起きているようだけど何か違う、私たちの周りには赤や緑のブレが現れていて、しかも体が上下に細かく動いてザリザリと音を立て体がジリジリと消えかかっていって、全ての音、目に映る景色が遠のいてブラックアウトしていく…。


あれ、これってミラグロ山で意識が遠のいたのと同じ感覚…。


「今のは無効!」


ベルーノが大声でそう言うと今まで起きていたバリバリという音、ブレ、それとブラックアウトしそうになっていた視界全てがパッと消えた。


ベルーノはペンとメモを用意して文字を素早く書いていく。


『ダメだ、もしかすれば無理に脱出を試みると身が危険に晒されるかも知れない』


「…」


サードも今の感覚を味わったらさすがにこれ以上どうにかしろとも言わず、向こうに見える島に首を動かし、諦めたようにため息をつく。


「だったらやっぱりあの島に行かねえといけねえか…」


「それなら先に私が少し調べてきます」


ガウリスはそう言うと、フワッと空中に浮いた。


え、浮いた!?


思わず二度見してから、


「飛べるの!?」


と大声を出すと、皆も、


「飛べたの!?」


「魔法なの!?」


ってワァワァとガウリスに向かってはやし立てるように聞いていく。ガウリスは驚く私たちにそんなに驚くことかと逆に驚いた顔で、


「龍の能力を得たのなら飛べるのだろうかと先日試してみたら飛べました」


あ、そういえばそうか、ガウリスは龍の特性が使えるようになったから空中を飛ぶこともできるんだわ。


「ガウリスどんどん人間離れしてくなぁ」


「…それはまぁ…自分でもそう思っています」


アレンの言葉に何とも言えない表情を浮かべ、気を取り直したようにガウリスは「行ってきますね」と島へ向かって一気に飛んで行く。


「空飛んでる…カッコイイ…」


こんな状況でもリビウスは空中を飛んで行くガウリスをキラキラした目で追っていて、そのガウリスの着ている服の白がどんどん遠くなって行って島の緑に映えている。


「…『衣干すてふ』って、こんな眺めなんだったんだろうな」


「え?」


サードの独り言に反射で返すと、


「俺の居た世界の古い歌にあるんだよ、春が過ぎたようで夏の山の緑に白い衣の布が映えてますって意味合いの歌が。綺麗に映えてるじゃねえか、緑に白が怖いくれえにクッキリと」


「…サードが怖いっていうのやめてくれる?何か本当に怖いこと起きそうだから」


そう言ってからハッとして、首をプルプル動かしてすぐに言い直す。


「ううん、やっぱり怖いものは怖いって言ってもいい」


冥界で皆に頼りたくなったら頼って、とか言ったくせに、都合のいい時だけ怖い気持ちを隠してっていうのはとても自分勝手な言い分だったわ。


それでもサードは何言ってんだこいつ程度に一瞥した程度で、島に消えていくガウリスを目で追っている。


「…これであいつ戻ってこなかったらどうすっかなぁ」


「…」


やっぱりサードがそういうこと言うと予感的中しそうで怖いから、そういうのは言わないで欲しい。

パソコンでこんな風に小説を書いていると、たまに視線を感じる時があります。

ハッと顔を上げると、ドアの向こうから猫が顔だけ出してこっちを見ています。

そのまま「うrrミャ」とか鳴いてお前こっちに来いと圧をかけてきたりします。

ある時、ご飯か、それとも見回りかと近寄ると、猫はお尻をプリッとあげて伸びをして、前にも伸びて後ろ足を伸ばしプルプルさせて、そのままこたつに入っていきました。


私は何のために呼ばれたのでしょう、上官の号令で部下の私が指示通り動くかの機動訓練だったのでしょうか。

部下である私は、ただ混乱しながらその場に立ち尽くすしかできなかったのであります。

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