第9話 幕間 岐路
「ねぇ、カイル。私不安で……」
「ああ。わかるさ」
激しい雨音が鳴り響く郊外のコテージのベッドで男女が身を寄せ合っていた。
エリシアは不安になっていた。
高い承認欲求とレインなんかにという気持ちから咄嗟に嘘をついたが、本当は魔族を倒していない、というのは彼女が一番知っていた。
今になって勇者になることが怖くなり、世間からの期待に押しつぶされそうになっていた。
一方のカイルはそんなことも知らずに鼻を伸ばしていた。
エリシアの不調は一時的なモノ、この間のゴブリン討伐の失敗はセレナや他の生徒たちのせい。
この男は身内に甘く、他者に厳しかった。
そんなことよりも彼女を手に入れたという優越感に酔っていた。
幼いころはレインの方が優秀で、それなのに謙虚で、ふつふつと憎んでいた。
レインを越し、権力と名誉、そして、エリシアを手に入れる、彼は望む全てを成し遂げた。
両者の想いがすれ違う時、コテージのドアがノックされた。
「誰だ、こんな時間に」
せっかく人気の無い別荘を選んだのに、ムードを邪魔されたカイルは静かに苛立つ。
「パパラッチかも」
「痛い目に合わせてやる」
「私も行く」
2人が衣服を着替え、己の武器を持つと玄関に向かった。
「誰だ!」
カイルがドアを開けると、激しい雨風と共に全身真っ黒のシルエットが現れた。
「きゃっ」
得体の知れない化け物に見え、思わず、エリシアが悲鳴を上げた。彼女を庇うようにカイルは槍を構える。
だが、それはよく見ると全身雨合羽姿の人間だった。
その人物がフードを外す、雨に滴りながら現れたのは幼馴染だった。
「レイン!?」
「国から出ていったんじゃないのか!?」
レインは1人だった。監視役は居なかった。
彼はまるで雨の様な静かで、悲しい声で語り出した。
「実は、魔族と契約をしてしまったんだ。お前達を倒すってな」
「な、お前!」
「でも、今ならまだ間に合う。お前達を殺さなくて済む。
たったこれだけの事で良い。
みんなの誤解を解いて、俺に頭を下げてくれればそれで良い。それで前の様な仲の良い幼馴染に戻れる」
彼の雨合羽から滴り落ちる雫と、切なる声はレインと言う男の一生を語っているようだった。
2人は顔を見合わせた。
そして、頷き合い。
「問答無用!」
「スターライド・ロード!」
カイルが槍を刺突、エリシアは特大の魔法を叩きこんだ。
手狭な玄関で放ったため、状況が分からなくなるほどの煙が立ち込める。
「けほけほ……」
「やったか?」
「なんで攻撃するんだよ?」
「は?」
「武器を置いて、頭を下げる。 それで終わっただろ? どうして、いつも真逆のことしちゃうんだよ? それで許してやろうって本当に思ったのに」
「う、嘘」
煙から出て来たレインは無傷だった。
カイルの豪速の槍の穂先を握りしめ、剣でガードした魔法の残存粒子を無造作に払い落とした。
彼の表情には悲しみはとっくになく、喉の奥で押さえていた乾いた笑い声が漏れる。
今までに積み重なった鬱憤を飲み込むかのようにゆっくりと背中を反らし、2人の幼馴染を見下ろした。
「でも、良かったよ。 これでもう俺も我慢しなくていい。
俺もお前たちがずっと嫌いだった。
殺すね」




