第7話
学園長オズワルドと教員ミリアの死はアークレイド勇者学院に衝撃を与えた。
すぐに騎士団による捜査が行われたが、犯人は特定できなかった。
2人を同時に倒せるのは魔族か相当な実力者と決めつけた捜査で、劣等生レインの事など眼中に無かったからだ。
そんな重苦しい空気が漂うアークレイド勇者学院だったが、数週間後には学園の優秀なパーティらで遠征演習が行われることになった。
山奥の古代の魔族砦跡にある魔物の巣を討伐するという、演習ながらも実際に人々の生活に関わる重要な任務だった。
皆の不満を吹き飛ばすかのように、エリシアとカイルの2人が宣誓する。
「皆、恐れることはない! 俺たちは魔族を倒したんだ」
「大丈夫、皆の事は私が守るから!」
2人の熱い言葉に生徒たちは熱狂する。
その様子を一歩離れたところでセレナは固い表情を浮かべていた。
レインを助けられなかったことに罪悪感を覚えていた。
彼女は彼の貢献を理解していたつもりだ。
しかし、彼女は正教会から派遣された身。協会はエリシアを推しており、彼女には教会の意向に逆らって、エリシアを非難することは出来なかった。
「私だってやれることはやったのです」
彼女は暗い気持ちで、独り言で言い訳を呟く。
そして、彼女の瞳に一筋の水滴が流れた。
驚いて思わず拭う、それは涙ではなく、降り始めた雨だった。
「そういえば……」
レインはパーティが遠征に行く前、メンバーを集めて念入りな打ち合わせを行っていた。彼は極力悪天候を避けていた。その為、天候に合わせて、出発時間やルート取りや休憩等は分刻みで決められて、早起きが嫌いなエリシアはこれを酷く嫌がっていた。
そして、彼が居なくなった今、スケジュールはカイルが決めていた。が、事前の打ち合わせは無し。出発時間はエリシアのコンディションが整ったら。そのお陰で一部のパーティは長らく待ちぼうけを食らっていた。
些細な事、だが、明らかな変化が起きていた。
「では、行こう!」
「大丈夫ですよね」
学園長、担任、友人の不在に不安を感じながらも、セレナは行軍に加わった。
しかし、その不安は的中することになる。
進軍開始、最初の10分で早くもトラブルが起き始めた。
「むっ、ブラッド・ウルフの群れか」
先頭を行くカイル達の前に、前に戦った狼の群れが現れた。
腕に自信がある生徒たちは次々と武器を構えるが、セレナは困惑した声を上げた。
「目的の要塞跡まではあと1時間あると言うのに……それに今回の討伐はゴブリンやコボルトと言った人型魔物の筈では?」
「これだけの山だ。魔獣に遭遇してもおかしくないだろ」
「いえ、レインさんなら、不必要な戦いは避けていたな、と……」
彼女がレインの名前を出した瞬間、カイルの目つきがみるみると吊り上がった。
「いや、その、すみません」
「大丈夫! 皆の丁度いい腕慣らしになるよ!」
エリシアがフォローすることでその場は収まったが、それから先も、様々な魔獣の群れとぶつかった。
そして、次に彼らの前に立ちはだかったのは、崖崩れだった。
カイルがルート選定に使ったのは学園の図書館にあった古い地形図で、とうの昔に道が通れなくなっていた。
やむなく、獣道を通ることにしたが、雨は強くなる一方で、ぬかるんだ道で大勢が転倒する羽目になった。
「はぁはぁ……待った。ちょっと休憩しないか」
険しい道の最中、一つのパーティからこんな提案が上がった。
彼らは重装備で固めていたため、この道のりとの相性は最悪で疲れ果てていた。
泥だらけの彼らを見て、カイルは一笑した。
「ふっ、情けないな。まだ本丸と戦ってないというのに」
「長らく出発を待たせたのはお前達じゃないか!」
「何が言いたい!?」
合同パーティはカイルに賛同する者と反発する者で真っ二つに分かれて、大いにもめ始めた。
争っている場合ではない、そう感じたセレナは仲裁を試みた。
「あなたのおっしゃることも分かりますが、もう少し頭を下げて頂かないと。まず、カイルさんに謝っていただいて……」
彼女はいつもレインにしているように、重装備の生徒にそう耳打ちした。
が、その生徒はみるみるうちに顔を真っ赤にして、怒り出した。
「お前、僕はこの王国の騎士団の息子と知ってか!」
「は、はい?」
「教会の人間が騎士団に指図するなんて大問題だぞ!」
「あ……」
アークレイド勇者学院には庶民もいるが、その多くは由緒正しき家計の子息だ。
親たちの政治的構図は子にも継承され、政治的争いが絶えない。
セレナは地雷を踏んでしまったのだ。
「そ、そういうつもりではなく!」
「騎士団として、正式に抗議するぞ! 田舎者の行軍の無計画さにもだ!」
「なんだと!?」
「あー、もううるさい!」
怯えるセレナ、怒る男子生徒、言い返すカイル、苛立ちを爆発させたエリシア。
結局、長時間にわたる言い合いに発展し、無駄に時間と気力を経過した挙句、砦の前に行ったところで休憩することになった。が、そこまではかなり距離がある上に、開けた場所で木々が無く、雨を凌げなかった。
一行は進軍に予想以上に手間取ったため、休憩もままならないまま、夜が来る前に短期決戦を仕掛けることになった。
「くっ、ここまで不運が重なるとは……鬱憤は魔物どもにぶつけるぞ!」
カイルの啖呵で生徒たちは一時的に士気を取り戻し、砦に突撃を敢行した。




