第6話
流石に学園で死亡事件が起きてはまずい。
レインは一応の救急処置を受けると、その日の内に追放となった。
寮で暮らしていた彼は住居を失い、持ち金は全てパーティメンバーの装備の為に使っていたため、一文無しだった。
故郷に帰る金もない。いや、帰れたとしても故郷の英雄を裏切った恥晒しとして、村八分にされるだろう。新生勇者パーティの裏切者の噂はこの王都中に広まり出している就職もできないだろう。
どうしようもない、夜の人気のない街をレインは涙を流しながら宛ても無く歩いた。
「俺が一体何をしたっていうんだ。どうすれば良かった? あいつらだけが英雄になるのか……」
慟哭を上げながら、レインは今までのことを思い返す。
彼は学園が終わると夜遅くまでアルバイトをし、学園や貴族から支援を受けてなお、化粧品や流行りものに目が無いエリシアの為に金を稼いだ。
実技で劣等生の彼が学園に残る為には、絶対に成績下位になることはあってはならず、夜が更けるまで勉強した。
そして、早朝に起きたら特訓だ。誰も居ない稽古場で、必死に汗を流す。
カイルが気まぐれで早起きしてこないを祈る。彼はレインを見つけると、目を吊り上げ、稽古をつけてあると滅多打ちにしてきた。過剰に打ち負かし、最後には田舎に帰れと言い放つ。
365日、幼馴染のための生活。
いつか、努力が実ることを信じて。
実らないかもしれないとは思っていた。
が、認められないのは想定外だった。
「く、っ。ははは、ふははははははは……」
レインは狂った。
そして、偶然の邂逅だった。
夜の街、一夜の為の宿泊施設も多い、そんな街でレインは学園長と担任が共にホテルから出てくるところに出くわした。
「ミリア、先生」
ミリアは目を見開き、大きく開いたシャツの胸元を慌てて隠す。清純で優しく皆に好かれる先生。だが、本性は違ったようだ。
「あ、あなたは!」
「劣等生の小僧! ふらつきおって!」
「学園長、どうしましょう?」
「儂に任せろ」
オズワルドは声を潜め、レインを強引に人気のない河原に連れ立った。
「これでも元はA級冒険者だ。殺してくれるわ、学園の面汚し」
「学園長、期待していますね!」
「喰らえ、ディバイン・アックス!」
絶望を超え、呆れているレインの前でオズワルドは自分の得物である金の刺繍の入った大斧を振りかざした。
それをレインは他人事のように見つめていたが、またあの言葉が頭を過った。
『どんな困難にも挫けず、苦しみを耐えた者だけが勇者になれる』
次の瞬間、魔族の時のように、時がゆっくり見えた。
レインの身体は考える前に動き、素早くローリングし、その渾身の一撃を躱す。
「!?」
流石のオズワルドは老齢を感じさせない俊敏な動きで立て直そうとするが、レインには止まっているように見えた。レインはその脇腹に手刀を打ち込み、更に拳を連打する。
素早く、重い拳。まるであの魔族のように。
「ぬおお!」
オズワルドが怯んだのを見逃さず、レインは彼が落とした斧を無造作に投げ飛ばした。それは放物線を描き、彼の首を刈り取った。
「学園長!? いやああああああああ!?」
ミリアは金切り声を上げ、逃げようとするが、脚をもつらせて転倒してしまう。
彼女は収納袋から自分の弓を取り出し、炎のエンチャント共に強力な一撃をレインに放つ。
が、その高速の矢はレインにキャッチされてしまう。
「あ、あり得ません!」
「……先生、見たでしょう?俺は嘘をついてなかった。どうして、聞いてくれなかったんですか?」
「来ないで、獣! 誰か助けて!」
「聞けよ」
彼女はパニックになったように弓を乱射する。レインはそれを容易く避け、彼女に近づく。
そしてようやく、立ち上がった彼女の腹に拳を貫通させた。
「かはっ!んああっ……」
ミリアは瞳を吊り上げ、口から唾液を垂らし、激しく痙攣した。
レインとて、最初は彼女に憧れていた。
だが、自分の腕で変わり果てていく彼女を見ているうちに、暗い優越感が脳を支配し、彼の倫理観を押し潰していく。
「へぇ、良い声で鳴くんですね。学園長が夢中になるわけだよ」
レインが拳を戻すと、激しい出血と共に地面に倒れた。
「ふふ……やっぱり、間違いじゃなかった。俺は強い」
2人の亡骸を見下しながら、返り血まみれのレインは静かに呟いた。
その音色には満足感が含まれていた。
突然、レインは河原の草むらの方を振り向いた。
気配を感じたのだ。
「そこで隠れているのは誰だ?」
レインが声を上げ、暫くすると、草むらから少女が警戒しながら現れた。
立派な軍服姿の色白の少女の手には剣、身長はすらりと高く、白銀の髪の頂点には角が二本ついていた。
魔族だった。
「わ、私はリゼ・アルフェン。魔王軍の士官だ」
「あの魔族の仇を討ちに来たのか?」
「ああ。バルガス殿の仇を討つ為の命を受けて。
だが、お前は何者だ! 同胞をこんな形で殺めるとは!」
彼女は虚勢を張っていたが、魔族らしからぬ震えた声だった。
脚や腕も小刻みに震えている。
かつての対戦した魔族のような貫録を感じない。
レインは理解し、嗤った。
彼女も魔族の劣等生だ。
レインは斧を降ろすと、彼女にこう告げた。
「勇者パーティを殺したいのか? なら、俺を雇えよ。殺してやるよ」
「な、何……?」




