第3話
エリシアの自分が魔族を倒したという発言を聞き、ミリアは目を見開き、レインに向き直った。
「レインさん、どういうことです? あなたは自分が倒したと」
「そ、それは本当です! きっとエリシアもまだ錯乱しているんだ」
「錯乱しているのはあなたではありませんか? 今ならまだ許します。
本当はどうなんですか?」
「本当だ。俺が倒したんです! 俺が倒したんだ!」
「いい加減にしなさい!」
まだ傷も癒えていないレインの頬を容赦なく打ち、説教した。
「レインさん、私は成績や実力で劣っていることを恥だとは思いません! でも、人間性が劣っているのは恥です! こんな状況で友人から功績をかすめ取ろうとするなんて!」
ミリアの言葉と共に他の生徒たちが聞き取れないぐらいに一斉に罵詈雑言を放つ。
そんな中、エリシアは女生徒たちに囲まれて、顔を埋めてしくしくと泣いていた。
文字通り、満身創痍になり戦い抜いて、見えた光景がこれ。
レインは怒るのでも、悲しむのでもなく、状況が理解できなくて、こうつぶやくしかなかった。
「……は?」
後日、一行は学園に戻って来た。
エリシア、カイル、セレナは魔族を倒した英雄として、レインはその功績を奪おうとした嘘つきとして。
アークレイド勇者学院学園の誇る劇場の様な大講堂で、政治家や著名人、騎士団や教会関係者が出席する中、盛大な表彰式が行われた。
当然、レインはそこから外され、講堂の隅で他生徒と混じって3人を見上げていた。
彼の目は死んだ魚のようだった。
そんなレインにエリシアは決して目を合わせず、カイルは完全に見下し、セレナだけは気の毒そうな目で見ていた。
それだけだったら、まだましだった。
「この劣等生野郎!」
「死になさい!」
「ぐふっ!」
今までも学園内で劣等生と渾名されていたが、今では英雄からその功績をかすめ取ろうとした屑にまで成り下がってしまった。正義感に酔った者、ただ虐めたい者たちに学園の目立たないところに呼び出され、毎日集団で暴行を受けた。
「この嘘つきめ!」
「ねぇ、やっちまおうよ!」
「任せたまえ。燃えよ!」
囃し立てられた魔術師の貴族生徒が炎魔法を放つ。レインは逃げも隠れもせずに、その炎をぼうっと見つめていた。が、それに飲み込まれる直前、緑色の膜が彼を覆った。
「おやめください!」
「うっ……! セレナさん!」
防護魔法で庇ったのはセレナだった。例の事件以来、数日間にわたってパーティメンバーとの会話が途切れている中での接触だった。
セレナは傷だらけのレインを憐むような目で見つめた後、不良生徒たちに立ちはだかった。
「これは明確な学園規則違反です。速やかに解散してください!」
「で、でも、そいつはあなたたちの功績を奪おうとしたんですよ!」
「そうよ!滑稽じゃない、魔族に勝ったっていう男がこんなにボロボロにされるなんてね!」
「30人あまりでたった1人を寄ってたかって何をおっしゃるのですか? 今なら問題にはしません」
セレナの忠告を受け、渋々と群衆は帰っていった。
その後、彼女は倒れているレインに回復魔法をかけ始めた。
「なんて酷い……今、回復魔法を」
「俺さ、戦い方が分からなくなったんだ」
「え?」
「あの時、俺は魔族に勝ったんだよな? 間違いじゃないよな」
レインの弱弱しい問い掛けに、セレナは返答に困った。
「それは、わかりません」
「エリシアが倒したと思うのか?」
「日頃のレインさんの努力と献身には感謝しています。
ですが、私も気を失っていたので……」
そう言いつつも、セレナはレインが倒したと信じ切れなかった。
彼の実力で倒せるとは思わない。が、あの戦況で他のメンバーが倒したとは思えない。
どういう訳か、分からないが、とにかく彼女は事態の収拾を試みた。
「レインさんも含めたパーティの皆で力を合わせて倒した、と。私が仲裁します。それでは駄目ですか?
まずはレインさんの方から謝っていただいて」
「だから、どうして俺が謝るんだよ! いつもいつも!」
「ひっ!」
聞いたこともないレインの怒声に、セレナは肩を震わせた。
彼女は優しい、周りからは聖女とも呼ばれている。
が、結局のところ、彼女は事なかれ主義だった。
「エリシアは何か言っていたのか?」
「話したくないと言うばかりで」
「直接、話してくる」
「レインさん! お待ちください!」




