第2話
「きゃああああああああああああああ」
「くそおおおおおお!」
レインが駆け付けた時には、2人が宙に投げ出されたところだった。
膨大な魔力で桃色に輝いていたエリシアの髪はくすみ、制服はズタズタにされていく。
カイルの防具は粉々に砕け、槍は大きくへし折れた。
「がはははは。温いわ、小童共!」
3mに及ぶ筋骨隆々の魔族は大口を開けて笑う。
最悪だった。
エリシアたちが追いかけた魔族は、よりにもよって幹部クラスの武闘派魔族だった。
「か、回復を……」
「はぁはぁ……私も、もう魔力が」
セレナの回復が生命線だったが、彼女の魔力は既につきかけていた。
「回復だ!」
レインはバックの中から回復瓶を取り出し、3人に放り投げる。
それはメンバーからシスターが居るのに、必要ないと呆れられたものだった。
「ふん、小細工が出来るものが居たか」
魔族は支援に徹するレインを邪魔だと思ったらしく、彼に鋼の様な拳をぶつけた。
「ぐわっ!」
とっさに持ち武器の一つ斧でガードしたが、彼の実力ではまるで耐えきられずに、後方の岩へと叩きつけられた。
意識が狭まる中、彼はバックから零れ落ちた最後の回復瓶に手を伸ばす。
しかし、カイルの怒号が飛ぶ。
「エリシアに使え!」
「えっ?」
「お前は戦力にならない! エリシアなら戦える!」
言い返したかったが、事実だった。レインは致命的な痛みの中、エリシアに回復瓶を投げた。
この魔族には勝てない。
回復して、逃げるしかない。
「よし、やるぞ! エリシア!」
「うん!」
が、エリシアとカイルは駆け出す。セレナも最後の力を振り絞り、バフを掛ける。
素早い槍捌き、天空に舞う魔法少女。
強力だ。しかし、さっきも見た光景だった。
「やめろ! そんなワンパターンな攻撃通用しない!」
レインの必死な叫びも空しく、爆風が迸る。
「温い」
やはり、爆風が晴れた先では魔族が槍を左腕で受け止め、右腕で魔法攻撃を受け止めていた。
「う、嘘だろ」
呆然とするカイルは魔族の無慈悲な蹴りに蹴飛ばされ、何本もの木をへし折りながら着地した。
「い、嫌……!」
それを見て、怯えながら後ずさろうとしたエリシアには、剛腕が振りかざされる。
「ああ、あああああっ!?」
彼女は上半身を衝撃のクレーターに沈め、無様に両脚を空に向かって開脚し、ピクピクと痙攣しながら気を失った。
「こ、こんな……あぅ……」
シスター・セレナは気絶した2人を見て、耐えられなくなり、失禁しながら気を失った。
「ふははははは! 無様な雑魚共め、勇者とは似ても似つかぬわ! 死ぬがいい!」
魔族は止めを刺そうと、強力な剛腕をぶつけようとした。
が、その完全勝利に水を差すかのように、レインの足蹴りが砂煙が作り、魔族の視界を奪う。
「ぬ!」
「こっちだ!俺はまだ残っているぞ!」
「雑魚が!」
レインに対し、魔族は拳を振るう。
魔力を腕力に置換した高速で致命的な一撃。だが、彼は見ていた。
(この魔族は右利き!)
これまでの戦いでこの魔族は右で止めを刺そうとする傾向があった。つまり左腕はフェイント。レインは何とかその攻撃を避けて見せた。
そして、幼馴染達を庇うように満身創痍の姿で魔族に立ち塞がる。
「ふっ、貴様は最も弱いな」
「言われなくても」
「だが、この中では最も鍛錬を重ね、最も考え、最も耐えている。人間の小僧にしては面白い」
「何?」
どうやら、魔族は挑発などではなく、本心からレインに賞賛を送っているようだった。それと同時に疑問を感じていた。
「それ故に、何故、この愚か者共にボロ雑巾のように扱われている? 何故、立ち塞がる?」
「おかしいかもしれない。でも、俺はこいつらの幼馴染だ。仲間なんだよ!」
「やはり人間は愚かだ。ならば、死ねぃ!」
魔族は剛腕を大きく振るった。
レインは剣で弾こうとするが、段違いの威力で話にもならず、剣を飛ばされて地面に叩きつけられる。
そして、考える隙も与えずに、脚が頭上から降ってくる。
身体は動かないのに、死の光景だけがゆっくりと見える。
(俺、死ぬのか。
あれだけ、剣を、大斧を、弓を練習したのに何もうまくできなくて。
あれだけ、皆の為に頑張ったのに認められずに。
俺は……)
「どんな困難にも挫けず、苦しみを耐えた者だけが勇者になれる」
突然、勇者の格言が頭の中を駆け巡った。
直後、腹の底から力が沸いてきた。
跳ね上がる様に上体を起こし、脚を回避する。
「何!?」
魔族が驚いたような声を上げ、拳を振う。
レインは素早く剣を取り、それを弾いていく。
(なんだ!? 俺の動きがこんなにも素早く……!)
幾ら練習しても、上手くいかずにつっかえていたことが、今全ての見込めたかのようにすらすらと身体が動く。
後ろに飛び抜き弓を構えると、途端に視界がクリアになり、魔族の動きが止まって見えた。放った矢は狙い通り眼孔に突き刺さった。
「ぐああああ!?」
レインは欠けた斧を拾い上げ、横投げで放り投げた。
魔族の右剛腕に最も理想的な角度で突き刺さり、それを抉った。
「ぐはぁ!
こ、小僧、覚醒したとでもいうのか!?」
魔族の慟哭なんて耳に入らない。レインは魂の叫ぶままに、剣を拾い上げた。
「これで終いだ!」
普段の何倍も跳躍し、魔族の頭上から剣を振り上げた。魔族はそれを見上げたまま、全ての合点が付いたように呆然と呟いた。
「そうか……お前こそが、本当の勇……!」
ぶしゃあ。
そんな音と共に血の噴水が上がり、魔族はゆっくりと倒れた。
レインは地面に着地し、肩で息をしながら呆然と呟いた。
「俺が、倒したのか……? 皆は!?」
彼は未だに気絶している3人の脈を確認すると、命に別状はないようだ。
レインはどうにか3人を担ぎ上げると、教師たちのところへと急いだ。
その道中、涙が溢れてきた。
「遂に努力が報われたんだ。それも幼馴染を救うという最高の結果で……!」
ようやく、今日からは胸を張れる。
が、しかし。
◇
「一体何があったのですか!?」
教師たちは演習終了の予定時間に立っても現れなかったレインらを探す為に捜索隊を結成しているところだった。
重症の3人を見て、教師や生徒たちは驚いた。教師たちの応急手当てによって、3人の顔色は良くなってきた。この分なら大丈夫だろう。
レインらの担当教師であるミリアという生徒から人気のある女性教師は大層驚き、生還者であるレインを質問攻めにした。
「魔族!? エリシアさんは魔族と戦って……!?」
「ええ、俺は止めたんですが、2人とも言うことを聞いてくれなくて」
「それよりその魔族は! まだ健在なのでしょう?」
「いえ、俺がどうにか倒しました」
「……え?」
ミリアは目を丸くした。それは聞き耳を立てていた他の生徒たちもだった。
彼女は声を低くして、訝しむようにレインを問いただす。
「ごめんなさい。でも、にわかには信じられないわ。あなたが」
「そんな!? いや、信じてもらえなくても仕方ありません。でも、急に力が沸いてきたんです」
「急に力が? そんなことがあり得るの?」
「エリシアさんの目が覚めた!」
その時、歓声が響いた。
気を失っていたエリシアが目を覚まし、ゆっくりとからだを起こした。
レインはその姿を見て安堵した。
「一体、何があったの?」
彼女のファンである女生徒が涙ながらに、彼女に尋ねた。
エリシアは周りをぼんやりと周りを見渡し、おぼろげに言葉を紡いだ。
「魔族が出て……私達、戦って……」
そして、彼女はレインと目が合い、目を伏せた後、こうつぶやいた。
「私が倒したの」
「……エリシア?」




