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第1話

「どんな困難にも挫けず、苦しみを耐えた者だけが勇者になれる」


 100年以上前に起きた熾烈な魔王軍との戦いで、魔王を打倒した初代勇者は民衆達にこう語った。

 誰もが彼のようになりたいと願い、少年少女たちは懸命に努力した。

 魔族たちはしぶとく、何度も魔王軍を結成し、人類もそれに対抗する勇者を必要とした。

 人類最大の王国である聖王国アルディアには勇者育成制度が存在し、各地から有望な少年少女たちを集めて育成するアークレイド勇者学院があった。

 貴族や才能ある平民が切磋琢磨するこの学園では今日、北方森林演習場で学院生たちが冒険実技を行っていた。


「カイル、そっちに行ったよ!」

「任せろ、エリシア!」


 森の奥深くに潜む獰猛なブラッド・ウルフの群れを槍使いの少年と魔法ステッキを持った少女が見事な連携で追い込む。


「皆様にご加護を――!」


 シスター服を着た少女が祈り、パーティのメンバーに加護《バフ》を与える。


「はあああああああっ!」


 槍使いカイルの渾身の突きが二頭を一気に貫く。

 その様子を見て、シスター・セレナが合図を出す。


「エリシアさん、今です!」


「これで――スターライド・ロード!」


 魔法少女エリシアが神々しい光と共に、空へと舞い上がる。

 ステッキにあらん限りの力を貯め、それを放つ。

 地面が光で埋め尽くされたかと思うと、その光線上の狼たちが一切合切残らず、消滅してしまった。


「流石だな。エリシア!」

「カイルもね。それにセレナも」

「いえ、私は補助していただけなので」


 騎士団相手の模擬戦でも勝利を収めたことのある俊敏な槍使いカイル。

 アルディア王国正教会の秀才シスター・セレナ。

 そして、類まれな魔力を秘め、可憐さを併せ持つ、次の勇者と名高いエリシア。

 特にカイルとエリシアは幼馴染であり、学園の関係者たちは彼女たちこそが次の勇者パーティだと確信していた。


 3人は切磋琢磨し、お互いを尊重し合う、理想的なパーティだった。



「危ない!」


 その3人の後ろから鋭い声がかけられた。

 3人が慌てて振り返ると、森の影から生き残りの狼が復讐に眼を光らせ、襲い掛かって来たのだ。

 狼の狙いはエリシアだった。


「きゃっ」


 彼女が短い悲鳴を上げたその直後、空中に飛びあがった狼は矢に撃ち抜かれた。


「危なかった」


 ほっとした声を上げたのは、先行する3人の後から来た少年だった。

 彼はレイン、実はこのパーティは4人組なのだ。

 エリシアとカイルの幼馴染でもある。

 しかし、危ないところを救われたというのに、二人には感謝の色が見えなかった。

 それどころか、カイルは額に青筋を立てた。


「危ない? どこが? あんな一匹、エリシアなら瞬殺できた」

「それは油断だ。猿も木から落ちるって言うじゃないか」

「……私を猿扱いするの?」

「い、いや、言葉の綾だよ」


 エリシアの冷たい声に、レインは苦笑して見せるが、直後のカイルの発言に表情が固まった。


「劣等生が。

 エリシアがお前を追放しないから学園に居られるんだぞ」


 レインは思わず、俯き、歯を食いしばる。

 小さな村で生まれた彼らはいつも一緒で、村人たちからの大きな期待を背負って上京した。エリシアら2人は花開いた。が、レインは伸び悩み、2人や学園の他生徒についていくことが出来なかった。

 幼馴染たちは日に日に冷たくなった。

 次期勇者パーティのお情けでいる《《劣等生》》、それがレインに対する周囲の評価だ。


 レインは弓だけではなく、剣や斧なども持っている。これは彼の藻掻いた末の試行錯誤を物語っている。


「ほ、ほら、レインさん。謝ってください」


 険悪になった雰囲気をシスター・セレナが、慌てて取り持とうとする。


「あ、ああ。ごめん」


 レインは頭を下げた。

 が、内心の何処かでは何故助けた自分が頭を下げなければいけないのかと、苦しんでいた。

 自分と比べて3人は段違いに力を持っている。

 しかし、レインには彼女たちが危なっかしく見えた。勝利時に気が緩みがち、周囲への無警戒、魔力を温存しない戦い方、無計画さ。

 彼は自分がそれを補うために、戦果に絡めなくても後方で見守り、何日も前から進軍ルートや休憩場所を考え、魔獣の生息地や天候を調べ上げる。そして、早朝には魔力を補うドリンクを作り、パーティの装備を完璧に整備する。空いた時間には自分の鍛錬、鍛錬、鍛錬。休みはない。


 それでも、今は見下されているとはいえ、レインは幼馴染たちが大好きだった。

 きっと、いつかは自分の努力が認められる。

 そして、自分は勇者となったエリシアたちが英雄になる瞬間を後ろから見届けるのだと信じていた。


「むっ、この足跡は」


 突然、カイルがしゃがみ込み、地面を覗く。そこには大きな人の足跡があった。


「人、いや、このサイズは人間じゃない」

「魔族!?」

「そうかもしれないな! まだ近くにいるかもしれない、行こう。エリシア!」

「うん!」


 エリシアは即座に頷き、カイルを連れ立って走り出そうとした。


「待て! 行っちゃだめだ!」


 レインは懸命に大声を出してそれを止める。

 魔族は魔獣とは訳が違う。騎士団の精鋭部隊が何人もの犠牲者を出しながらようやく渡り合えるのが魔族だ。

 幾らエリシアが将来の勇者だからと言って――いや、それだからこそ、これは蛮勇だ。


「一旦、先生たちのところに戻って報告しないと! 演習が始まる前に言われただろ!」

「わ、私もレインさんの言うとおりだと思います」


 流石にセレナも彼に賛成し、引き返そうとした。

 が、エリシアはレインに冷たい目を向けた後、セレナには笑顔を見せてこう言った。


「先生たちには心配しないでって伝えておいて。大丈夫。私は勇者だから」

「行くぞ、エリシア!」


 結局、2人は森の奥へと駆け出して行ってしまった。


「あのバカ! 止めないと!」

「わ、私も!」


 どれだけ見下されようと、幼馴染を見捨てられないレインというお人よしの愚か者と、優秀で優しい性格だが、決断・判断力に欠けるセレナは2人を追いかけていってしまった。


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