一章完 第13話
後日、魔王軍の拠点である洋館のリゼの執務室に彼女の声が響き渡っていた。
「そんな馬鹿な話、聞いたこともない!」
彼女の元には、レインとクルリがやってきていた。
クルリはリゼの否定の台詞を聞くと、目を冷たくし、ローブの中から武器を取り出そうとした。
リゼは慌てて取り繕おうとしたが、やはり納得できなかった。
「聞いたこともない。人間が魔王になるだなんて!」
突然、彼女の元に現れたレインは彼女に魔王になるから手伝えと突拍子もないことを告げた。
発端はクルリの寝言だったが、レインに心酔するクルリはその宣言に有頂天になっていた。
「レイン様は人間ではない! 神だ!」
「何を言っている!?」
「まぁまぁ。この子は俺を尊敬してくれているだけだ。あまり怒らないでやってくれよ。クルリも武器をしまえ。俺たちは仲良しパーティだろ?」
「はい、レイン様」
とりあえず、クルリの顔から殺気が消えたことでリゼは安堵する。
しかし、冷静に考えても無茶苦茶だ。
あくまで、レインは魔王軍の協力者。
「無茶なことを言うな……」
今は他の魔族もレインのことを認めてはいるが、魔王に立候補などと戯言を呟けば、またしても魔王軍での内ゲバだ。
「だが、今でこそ魔王軍は形になっているが、少し前まではどうだった?」
「酷かった」
「誰のおかげで立て直した?」
「それは……君の力もあるかもな」
「謙遜するなよ。俺たちのだろ?」
優しい言葉。だが、リゼは俯く。
実際、3人は上手くやっていた。
レインは好き勝手に暴れ、クルリは全力でそれをサポートし、後の尻拭いはリゼに任せる。
一見すると、リゼに仕事を押し付けているようだったが、レインが王国に与えたダメージは計り知れず、それは彼を部下としているリゼの手柄となった。
出世した彼女は腐敗した魔王軍を立て直し始めた。
拠点の整備、汚職幹部の粛清、指揮系統の整備……今いる執務室だって、数か月前までは荒れ果てていたほどだ。
魔王軍が立て直すにつれ、失望して去っていった実力派の魔族たちが帰ってきた。
努力が報われない過去があったためか、レインはリゼの扱いが上手かった。
他の魔族の依頼を受け入れず、リゼを通す命令しか聞かないことで、彼女に箔を付けさせ、魔王軍参謀まで押し上げた。
戦闘においては劣等生なリゼも、事務方や根回しで力を発揮するタイプで、レインの攻撃に合わせ兵を準備し、段取りを整えた。
強力なパーティであるのは間違いないのだ。
リゼはレインが恐ろしいが、一方で、無くてはならない存在だった。
力では敵わない、論戦による引き留めを狙った。
「魔王になれなければ、此処を去ると? だが、何処に行くと言うんだ」
「王国に戻る」
「は? はははは!
何を言うかと思えば。あれだけ暴れたのをもう忘れたのか? 戻れるはずがない!」
リゼは安堵した。
この男は深く考えてないようだ。
だが、予想に反して、彼は理論を持っていた。
「戻れるんだよ。俺にはアルディア正教会にツテがあるからな」
「あのシスターの少女が? 」
「ああ。正教会の説教を受け、闇落ちした勇者が正気に戻る。なんてストーリー、連中が好きそうだ。セレナも事なかれ主義の権化、俺が気が変わったと言えば、すぐに靡く」
「なっ!」
リゼはそんな馬鹿なと言いたかったが、筋は通っていた。
「それよりかは、この三人でてっぺんを目指す方が楽しそうに見えたけど……嫌ならしょうがないかぁ。クルリ、行くぞ」
「はい、レイン様!」
頭を抱えるリゼに二人は背を向けた。
彼女の脳裏に二つの人格が現れる。
行かせろ、あの恐ろしい人間から逃れるチャンスだ。
引き留めろ、魔王軍の未来の為に必要だ、と。
そして、2人が執務室の扉を開けた時、反射的に立ち上がった。
「行かないで!
……行かないでくれ。
分かった、考えてみよう」
根負けした彼女はそう言ってしまった。
彼女はレインが居なくても魔王軍を取りまとめられるほどの有能ではなかったが、それに気付けないほどの無能でもなかった。
それに、自分の価値を最も理解しているのは、悔しいがこの男だ。
レインは彼女を振り返ると、愉快そうに言った。
「良かったよ。
俺達仲良しパーティだもんな。離れたくなかったよ。信じてたよ!
良い判断だぜ。
魔王と勇者が同じ陣営に居るんだ。
さ、人間を支配しに行くぞ」




