8月
今の状態になってから夜に調子が悪くなることが多かった。
体調がマシな時はゲームをしたり夜更かしをしようという気持ちになることができるけれど、調子が悪い時はただ横になることしかできなかった。
8月になって夏休みが始まった。まだ数日しか経ってないが僕は7月よりも明らかに心の状態が悪くなっていた。
毎日彼女に会って、お菓子をもらって何気ない話をして一日を過ごしていた。
その1日が今の僕にとって思っていたよりもずっと大事だったということに夏休みになってから気づいた。
太陽が眩しく青い空が広がっている昼間は起きることができずにずっと寝て、夜になると正体不明の孤独感に心を押しつぶされそうになる。
毎日そんな生活を続けて僕の心は疲れ切っていた。
もう、こんな生活嫌だ。
そう思っていた時にスマホの通知音が鳴った。
僕は飛び上がってスマホを見た。
思った通りだった。
彼女からだ。
「今日の夜、一緒にお祭りに行かない?」
嬉しいという気持ちで心がいっぱいになった。
今ならなんだってできる。そんな気さえしてくる。
僕は急いで準備を始めた。
久しぶりに彼女に会える。
そう思うといつもより張り切って準備をすることができた。
夜になって待ち合わせ場所に着くと浴衣姿の彼女が立っていた。
まさか浴衣を着て来るとは思っていなかったら僕はその姿に見惚れてしまった。
「藍くん、やっほー。久しぶりだね。」
「やっほー。浴衣すごい可愛いね。似合ってる。」
思わず感想を口に出してしまった。
やらかしたと思った。
付き合ってもいないのにこんなことを異性に言ったら引かれてしまうかもしれない。
そんな僕の考えとは逆に彼女は嬉しそうな顔をして
「え?ほんと?」
と目を輝かせながら僕に聞いてきた。
僕は照れながら頷いた。
彼女はとても嬉しそうに
「浴衣思いきって着てきてよかった。」と言った。
二人でお祭りがやってる場所まで歩いた。
賑やかな音が聞こえてくる。
寂しい夜を照らすような温かな光が目に入ってきた。
「今日はいっぱいお小遣い持ってきたから楽しもう!」
僕はワクワクして子供みたいにはしゃいでしまった。
食べたいと思ったものは買って歩きながら食べて。
射的や金魚すくい、くじ引きなど色んなゲームを楽しんだ。
しかし後半に差し掛かり少し体の調子が悪くなってきてしまった。
人の多いところがしんどい。騒がしい音がしんどい。
鼓動がどんどん早くなっていくのがわかる。
そんな僕を見て彼女は「少し離れたところに行こうか。」と言って僕を近くの公園に連れていってくれた。
「ちょっと待っててね。」彼女がそう言ってどこかに行ってしまった。
数分後、コンビニで袋を持って彼女が帰ってきた。
「藍くん、大丈夫?水買ってきたからちゃんと飲めるかな?」
そう言われて僕は水を少し口に含んだ。
静かなところに来てだいぶ落ち着いてきたが。
最初に比べて明らかに気分が落ち込んだ状態になってしまった。
彼女は僕が少し落ち着いたのを見て話しかけてきた。
「最近、しんどい?」
僕はそう聞かれて今まで溜めてたものを吐き出すように話し始めた。
「最近、君に会えなくて。ずっとしんどかった。昼は寝たきりで夜になってやっと目が覚めてもずっと孤独感を感じて。しんどくて。」
「あら、孤独感を感じるか。うーん?」
彼女は少し疑問を感じたようだった。
「なんで?孤独感を感じるの?」
「え、だって僕は一人ぼっちだし…」
彼女は指で自分のことを指さして言った。
「私がいるじゃん。藍くんは1人じゃないよ。」
彼女に言われて心が軽くなった。
「藍くん、私にあまり自分から連絡してこないじゃん。もっと気軽に連絡してくれていいんだよ?藍くんと話すの楽しいし。」
「ありがと。」
「ねぇ、藍くんしんどくなって落ち込んでたっぽいかららテンション上がるもの買ってきたよ。」
「なに?」
彼女がはコンビニの袋から花火を出してきた。
「どうりで袋がデカかったわけだ。」
「この公園水道もあるし、草も少ないし住宅から離れてるから花火しない?」
「うん!」
彼女と一緒に色んな花火を楽しんだ。
どの花火も綺麗で僕の沈んだ心を照らしてくれているそんな気がした。
ほとんどの花火を使い切って残ったのは線香花火。
彼女が「どっちが長くできるか勝負!」と言ってきた。
二人で線香花火が弾けるのを見る。
「綺麗だね。僕、線香花火が一番好きなんだ。なんでか分からないけど。」
「私も好きだよ。」
「今日さ、誘ってくれてほんとに嬉しかったんだ。お祭りももちろん楽しかったけど、君に会えるのがいちばん嬉しかった。」
「あら、誘ってよかった。」
「さっき、僕は1人じゃないって言ってくれてほんとに嬉しかった。君のおかげでもう夜が怖くないし、孤独感もきっと感じない。一緒にいてくれてありがとう。」
「そうなんだ、私も一緒にいれて嬉しいし、楽しいよ。」
「夏休み、また一緒に遊ばない?」
「うん!一緒にまたご飯行きたい。」
「ご飯、いいね。」
線香花火が落ちるまで僕たちは色んな話をした。
暑くて、孤独を感じるだけだった夏が。
こんなにも輝いてるように感じるのは君がいるから。




