9月
夏休みが終わった。
9月が始まる。
日本では9月1日に若年層の自殺率が上がる傾向があるらしい。
昔そのニュースを見た時は「どうしてそうなるんだろう?」と疑問を持っていたが今になってやっとわかった。
生活リズムの変化による自律神経の乱れやメンタルの乱れ、そして何よりもこれから始まる学校生活へのストレスに耐えられない若者が亡くなっていくのだ。
僕は9月1日学校を休んでいた。
朝、起きることはできたけどパジャマを脱ぐという行為すらできなかった。
何もしたくない、何も出来ない。
そんな自分がどうしても嫌になる。
皆が学校に行ってる時に自分は何もしていない。
そんな罪悪感に僕の沈んだ心は耐えれない。
重い体を起こしてご飯を食べようとする。
ちょうどお母さんが朝ごはん用に菓子パンを買っていてくれた。
1口、2口と口に運ぶ。
期待していなかったが味がしない。
味がしないだけなら良かったのに今日は吐き気までする。
自分の口の中に指を突っ込む。
喉の奥を指でなぞる行為に応えるように胃液が上がってくる。
食べ物を吐き出して幾分か気分はマシになった。
顔を洗いたくて洗面台の前に立つ。
「ほんと、なんて顔してんだよ。」
少しでも気分を変えたくて歯を磨くだけして外に出た。
今日は曇りであまりいい天気とはいえないけれど9月にしては涼しい。
僕は自然と学校の方まで歩いていた。
学校に着くとちょうど6時間目が終わったようで生徒が帰り始めていた。
「藍くん、どうしたの?パジャマ姿じゃん。」
「しんどくて、何も考えられなくて。外に出て歩いてたら気づいたらここに来てて。」
言葉を絞り出すように吐くけれど息がしづらくなってくる。
「藍くん、1回落ち着いて。」
彼女は僕の背中を一定のリズムで叩いてくれた。
だんだんと呼吸が元に戻ってきた僕を見て彼女は言った。
「藍くんのこと、家におくりがてら藍くんのお家で少し私とお話しよう?」
「うん。」
「ほら、2人で手を繋いで帰ろうよ。」
彼女と一緒に手を繋いで家まで帰った。
お母さんは僕が友達を家に連れてきたことにすごく驚いた。
でも笑顔で歓迎してくれた。
部屋を片付けていなかったので「汚い」という事実を彼女に伝えると、「私も部屋汚い…」と少し気まずそうに言うので少しクスッと笑ってしまった。
部屋に入って少しゆっくりするといつものように彼女から話を始めてくれた。
「藍くん、今日はどうしたの?」
「しんどくて、ひとりが嫌になって。」
「ねえ、藍くん。君はなんで今の状態になったの?君の心はどうしてここまで傷ついてしまったの?」
僕は思い出したくもない昔のことを思い出した。
中学生のころ、僕は勉強の出来る子どもだった。
それ以外に得意なものもなく半ば承認欲求みたいなものがあり必死に勉強した。
勉強をしている瞬間だけ自分が認められている気分になった。
次第に成績はよくなり、定期考査では学年1桁の順位をずっと取り、時には1位になることもあった。
やっと自分が何者かになれた気がした。
そんな時周りの友達から言われた言葉は
「藍くん、元から頭良さそうだもんね。」
その言葉だけはダメだった。
僕の努力を全て踏みにじるような言葉だった。
僕はもっと勉強したらいつか努力を見てくれる人がいるかもしれないと感じて家でも学校でも勉強に打ち込んだ。
勉強に打ち込めば打ち込むほど周りから陰口を言われるようになった。
「前までは陽気で楽しいやつだったのに。」
「友達としてめっちゃ関わりやすかったのに。」
「あいつ、変わっちまったんだな。」
「勉強のことしか考えてないんだよ。」
僕は自然と1人になった。
人を信じるのが怖くなった。
ある時、急に勉強ができなくなった。
今まで覚えることのできた内容が何度勉強しても覚えることができなかった。
次第に勉強を辞め布団の中に引きこもるようになった。
感情も生きるために必要な欲も全て無くなった時にやっと親が病院に連れていってくれた。
医者からはいくつかの病気である可能性があると伝えられた。
鬱、パニック障害、社会不安障害。
僕は勉強を辞めた。
それでも今の高校に入ることはできた。
過去の成績と覚えた知識があったから。
でも、僕はずっと独りだ。
昔のことを全部彼女に話した。
彼女はただ少し微笑みながらゆっくりと話を聞いてくれた。
話を聞き終えると彼女がいつものように質問してきた。
「ねえ、藍くん。君は4月のあの日命を絶とうとしてたよね。まだ死にたいって気持ちはある?」
「漠然とした死にたいという気持ちはあるかもしれないけど、最近は君がいるから生きててもいいのかなって感じてきてる。」
「えらいね。生きててえらいよ。」
「よく聞く言葉だね。でも君が言うだけでこんなに僕のことを救う言葉になるんだね。」
「そうだよ。世には素敵な言葉が沢山あるけど、私はその意味や重さよりも誰がその言葉を自分に言ってくれるかが重要だと思ってるんだ。」
素敵な考え。そう感じた。
彼女は続けて話した。
「ねえ、藍くん。勉強なんかしなくても君のことはちゃんと見てるから。独りじゃないよ、私がいるよ。」
「うん。」
「私と生きよう。」




