7月
7月、梅雨が明けて青い空に包まれ始める季節。
夏の始まりとも言える季節が僕は昔から好きだった。
しかし、好きといっても雰囲気が好きというだけで暑さに対する耐性はない。
僕は夏バテ気味になった毎日を過ごしていた。
ただでさえご飯を元々あまり食べることができていないからお菓子を食べているのに、最近ではそのお菓子すらも食べることができていない。
「少しだけでも食べなさい。」そう言ってお母さんが毎日工夫を凝らした料理を作ってくれているが中々手が出ない。
どんどん体が痩せ細っていく。
腕はすぐ折れそうなくらい細くなり、足は立っているのがやっとだというくらいに見える。
自分の体がこのような状態になるなんて想像もできなかった。
鏡の前に立って自分の体を見て現実を受け入れたくなかった。
でも服を着ると自然とサイズに余裕ができることが僕により一層現実を見せてきた。
これが僕の今の体なんだ。
憂鬱な気分で学校に向かった。
このような状態になっても学校に行く理由は声をかけてくれる彼女に会いたかったからだ。
いつからかは分からないが彼女が学校に行く理由になり始めていた。
学校に行くといつも通りの彼女の姿があった。
「おはよう、藍くん。」
「おはよう。」
「なんちゅー顔色してるの。最近ちゃんとご飯食べてる?」
「実は、食べれてない。」
「あら、どうしたの。私に聞かせて?」
「毎日ご飯を食べようとすると吐き気がする。」
「それは最近の暑さのせい?」
「それもあるかもしれないけど今の状態になってからまともにご飯を食べれたことが一度もない。」
「確かに、学校で藍くんがお菓子以外を食べてる姿見たことないかも。お昼休みはいつもどこで過ごしてるの?」
「トイレに行くか教室で寝たふりをして過ごしてる。」
「漫画の主人公みたいな昼休み過ごしてるじゃん。」
彼女の素早い返しに少し笑みがこぼれた。
彼女は少し考えてから僕に質問をしてきた。
「藍くん、もしかして人とご飯食べることができない?」
突然の質問に僕は驚きを隠せなかった。
僕は今の状態になってから人前でご飯を食べていなかった。
家ではご飯を一人で部屋の中で食べていたし、学校ではまずご飯を食べていなかった。
しかし、そのことは親にさえ言ってなかった。
言ってもどうせ誰にも分かってもらえないだろうと心の奥で感じていたからだ。
僕は絞り出すような声で答えた。
「うん、人とご飯が食べれない…」
「どうして?」
「ご飯を食べている自分自身に罪悪感を感じるんだ。【お前は何も頑張っていないのにご飯を食べるのか】と誰かに言われてるようにさえ感じる。人前でご飯を食べるのが無理なのは大前提、1人でご飯を食べることさえも難しいんだ。」
「好きな物を食べることも難しい?例えば藍くんお菓子が好きだから甘いものとか食べやすいんじゃないの?」
「でも、食べても味がしないんだ。」
「味がしないか…なかなかに難しいね。」
「僕はもう食事を楽しむことができないのかな。」
そう自分で言葉にすると涙が出そうになる。
そんな僕を見て彼女は優しく提案してきた。
「今度の休みの日、私と一緒にご飯を食べに行かない?」
休みの日になった。
突然の彼女の誘いに僕は驚いてご飯に行くことを了承してしまった。
どうせ行っても食べられない。
残すだけでお金が無駄になってしまう。
仮に食べれたとしても味がしなかったら?
彼女を不快な気持ちにさせてしまうのでは?
ネガティブな思考で心が埋め尽くされていくのがわかる。
とても今から友達とご飯を食べにいく人のテンションではない。
しかし遅刻してしまったら余計に彼女に迷惑をかけてしまうと思い急いで準備をして家を出た。
待ち合わせ場所の駅に着くと彼女の姿が見えた。
僕を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。
「やっほー!藍くん。」
「なんか、テンション高くない?」
「だって、藍くんと初めてご飯行くじゃん!結構楽しみにしてたんだよ。」
彼女の言葉により一層プレッシャーが高まる。
「よし!行こうか!」
彼女は僕の手を握り歩き出した。
一体どんな店に連れて行かれるのだろうと内心ドキドキしていたが着いたのは見慣れたハンバーガーチェーン店だった。
僕は少し唖然とした。
J Kに対する勝手なイメージを持っている僕はもっとオシャレな店に連れて行かれるものだとばかり思っていた。
料理を注文し、受け取り、席についた。
「いただきます!」彼女はそう言うと目の前の料理を勢いよく食べ出した。ハンバーガーを大きな口で頬張り、そこにポテトを食べて、飲み物を飲み。
見た目からは想像できない食べっぷりに僕は驚いた。
でも、彼女の食べてる姿はとても幸せそうで見ててほっこりとした気分になった。
彼女は少し一息ついて話し始めた。
「私、今日やらないといけない課題も家事も全部サボって今日ここに来た!だから、何もしてない藍くんと一緒なのに今こんなにご飯食べたんだ!」
彼女の不器用な気遣いに笑みが溢れた。
そんな気遣いが無くても、目の前であんなに幸せそうに食べられたら自然と自分もご飯を食べたくなる。
「いただきます!」
ハンバーガーを口に運んだ。
「あはは、藍くん一口小さすぎ。リスみたい。」
「久しぶりなんだよ、ハンバーガー食うの。」
「また、私とご飯行こう?暇な時や休みの日に。」
「うん!」
美味しい、君と食べるご飯は味がする。




