6月
6月になった。
雨が降る季節、自然と人の心も沈みやすくなる季節かもしれない。
僕も昔は雨が苦手だった。
子供の頃は外で遊ぶのが好きだったので雨が降るといつも外に出られないことを残念に思ったものだ。
いつからだろうか、雨が好きになったのは。
雨は元から沈んでいる私の心を優しく肯定してくれている気がする。
雨の音を聴きながら眠る夜は自然と心も落ち着くことが多い。
今朝は彼女からの電話よりも先に目が覚めた。
起きて少し学校に行く準備をしてると彼女から電話が掛かってきた。
「おはよう、藍くん。」
毎日声を聞いてるから今日の彼女がいつもより元気ではないことはすぐわかった。
「おはよう、どうしたの?なんかいつもより元気ないじゃん。」
「偏頭痛…」
「ありゃりゃ、それはしんどいね。」
「そうなの…藍くん慰めて?」
急に甘えた声でそう言われたから僕は不覚にも少しドキッとしてしまった。これが恋心なのかただの動揺なのかわからない。
少なくとも初めて会った時よりも彼女に僕は興味を抱いている。
そんなことをモヤモヤと考えてると彼女が
「まだー?慰めの言葉待ってるんだけど。」
と言ってくるので、僕は子供をあやすように
「しんどいね、辛いね。」
僕の言葉を聞くと彼女は嬉しそうに笑った。
「やっぱり、思った通りの言葉だった。」
「どういうこと?」
「しんどそうにしてる誰かを慰める時って普通の人は【大丈夫】、【すぐ良くなるからね】なんて言葉を使うじゃん。」
「たしかに、その言葉をよく聞くかもね。」
「私、それが嫌いなんだ。あなたがしんどい訳でもないのになんて無責任な言葉を言うんだろうって思っちゃうの。」
「何となくわかるかも。」
「でしょ?でも藍くんならきっと私が欲しい言葉をくれるって思ってたの。」
「どうして?」
「藍くんは絶望を知ってるから。」
「はは、なんだそれ。」
「さ!そろそろ準備しないと遅刻しちゃう!じゃあ藍くん、またね。」
「うん、またね。」
学校は今、文化祭の準備に向けて楽しい雰囲気を纏っている。
僕にとっては楽しみなものでもないので最低限準備を手伝って、当日は休んでやり過ごそうとしてた。
しかし、その旨を彼女に話すと
「えっ?私と一緒にまわらないの?私一緒にまわる気満々でめっちゃ楽しみにしてたんだけど。」
と言われてしまったので当日は一緒に文化祭をまわることになっていた。
文化祭当日、僕は少し緊張していた。
冷静になって考えてみると女の子と二人で文化祭をまわるのなんて初めてだ。
こういう時、男はどうすればいいのだろう僕は気が利く訳でもないし、相手のことを楽しませることもできない。
彼女はなんで僕を誘ったんだろう。
そんな考えを巡らせながら気づいたら学校の前に着いていた。
先に学校に着いていた彼女がクラスで待っていた。
「やっと来た。今日は楽しい一日にしようね」
「あの、僕なんも気きいたこととかできないんだけど大丈夫?」
僕はおずおずしながら考えてることを彼女に話した。
「あはは、男だから私を楽しませる?そんなこと考えてたの?」
「だって普通そうなるのかなって。」
「私はそんなの関係なく藍くんとまわりたいと思ったから誘ったんだよ。」
「そうなの?」
「うん。だからさ、難しいこと考えずにめいっぱい楽しもう!」
2人で色んな出店をまわった。
最近の文化祭はすごいものだ。食べ物だけでなく射的やストラックアウト、フォトスポット、お化け屋敷、凝っているクラスなんかはジェットコースターを作ったりもしてる。
色んな出店をまわった後彼女は屋上に僕を連れてきてくれた。
「ここ、人が少なくてお気に入りなんだ。」
「へぇ、よく来るの?」
「うーん、お昼休みとか放課後とか結構来るかも。ここから見える景色が好きなんだ。」
「僕は高いところが苦手だから少し怖いなぁ。」
「ほら、こっちにきて!手握っててあげるから。」
彼女の手を取り屋上の柵から身を乗り出して景色を眺めた。
「ほんとだ、綺麗。」
「ね?言ったっしょ。ここから見える景色が好きだって。」
彼女はそう言って少し間をあけてからまた話し始めた。
「藍くんと一緒にこの景色を見たかったの。」
「僕と?どうして?」
「えー?理由かぁ。わかんないな。なんとなく藍くんって綺麗な景色が好きそうって思ったのも理由の一つかも。」
「僕、普段は全然景色とかに興味がないんです。もちろん綺麗っていうのは分かるんですが景色を見ても何を考えたらいいかわかんなくて。」
「そうなんだ。」
彼女が少し寂しそうな顔をした。
僕はそんな彼女を横に大きな声で言った。
「でも!今日見た景色はすごい綺麗だった。」
「ほんと?」
「うん。理由はわからないけどとても綺麗だった。君が手を引いてくれたから見れた景色だった。」
「えー。そんなこと言われると照れちゃうな。」
「ありがとう。」
「こちらこそ、手をとってくれてありがとう。」
「これからも、君と綺麗な景色を見てみたい。だめ?」
「私も同じこと考えてた。」




