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4月

「今日もいい天気だよ。おはよう。」

慣れ親しんだ母の声で目が覚める。少し目を擦ると視界がはっきりとしてくるが体は重く起きる気にはなれない。そんな僕の様子を見て母は「今日は学校行けそうかな?」と聞いてくる。始業式の日に1度学校に行って以来しばらく登校できていない。

「今日も無理そう。」

僕は少しぶっきらぼうに返事をしてまた目を閉じる。

するとお母さんが「今日だけでもいいから行ってみない?」と聞いてくる。

いつもは無理だと返事をすれば引き下がるお母さんが今日はやけにしつこく僕を説得してくる。

僕はそれに対して少し苛立ちながらもお母さんの説得に根負けして、学校に行くことにした。

僕の高校は制服がなく、私服登校で基本的に朝シャツのボタンをしめるという煩わしい作業をしないで済む。特に服装を気にすることなくTシャツに腕を通し、歯磨きをして、顔を洗う。

「髭は…剃らなくていいか。」

いつからだろうか、毎朝起きると顔に煩わしい毛が生えているようになった。別に僕自身はあまり髭が生えていることを気にしないのだが周りの男子は髭を恥ずかしいものとして認識している。

「髭が生えているとおじさんみたい。」

「清潔感がなくてかっこ悪い。」

なんてよく言われているが人間なら誰しも毛は生えてくるものだしそこまで気にしなくてもいいのではないかと思う。元々あまり外見を気にする性格ではなかったが、鬱になってからは特にそれが酷くなってとても高校生には見えない風貌をしている。

靴を履いて外に出る。

自分の心とは真反対とも言える空の機嫌に少し煩わしさを感じながらも、自転車のサドルに跨り思ペダルを漕ぐ。久しぶりに自転車を漕ぐものだから足がすぐに疲れてなかなか進むことができない。こんな普通のことも出来ないのかと自分自身が嫌になる。

家の近くの高校に30分もかけてようやくたどり着いた。

だが僕の戦いはここで終わってない。生憎僕のクラスの教室は3階にある。僕は3階まで階段を登らなければならない。1歩、また1歩、鉛のような足を持ち上げながらやっとの思いで3階までたどり着いた。教室に入るころには僕は汗だくになっていた。

教室に入るとクラスメイトの視線がこっちに集まるのが分かった。だからといって僕は特に何も話すことなく席に座って、顔を腕の中にうずめて目を閉じた。

ホームルームが始まるまで寝てよう。そう思った矢先に後ろから声がした。

「なーに新学期早々サボりまくってんの。そして、久しぶりに登校したと思ったら寝てるし」

あの夜聞いた声だ。

振り返るとあの日と同じ少し微笑んだ表情の彼女がいた。

「おはよう、藍くん。」

「おはようございます。」

「おっ、挨拶返してくれると思ってなかったからびっくり。」

「挨拶くらい僕もされたら返すよ。」

彼女は少し嬉しそうな顔をして

「じゃーこれからは藍くんが学校に来た時絶対挨拶するね。」と言った。

なんでそんなに僕に構うのだろうと疑問を抱いているとチャイムが鳴った。

先生が教室に入って来て朝のホームルームが始まった。先生は一瞬こちらを見ると少し驚いた表情を見せた。

おそらく僕が来たことに対して驚いているのだろう。

まあそんなことも特に気にならないので僕は相変わらず顔を腕の中に埋めて眠ろうとしてた。

すると先生が「新学期で皆さんの名前をやっと覚えることができたので席替えをしませんか?」と言い出した。クラスが歓喜の声で包まれた。

僕は席替えなんか関係ないと思いながら、後ろの席になればラッキーだなくらいに思っていた。

僕はこういう時引きが強い。

くじ引きの結果僕は狙い通り1番後ろの窓際の席になった。

これで眠ってても大して目立たないだろうと安堵していると横からあの声がした。

「あれ、隣じゃん。」

「まじかよ」

「ほーらそんな人のことを化け物見るみたいな顔で見ないの。友達なんだからこれからいっぱい話そうね。」

「話す機会があればね。」

素っ気なく返事をした。

授業が始まり僕はこの時間が早く過ぎますようにと願いながら眠りについた。

先生たちは僕の病気のことを知っているので、大して怒ることもせず僕をいないものとして授業を進めていく。

昔、死に物狂いで詰め込んだ知識たちが今では役に立たなくなってしまった。

時々今の自分よりも中学生や小学生の方が頭がいいんじゃないかと思うほどである。

でも、学力なんて今の僕には必要ないから授業を聞く気もさらさらない。

四限目が終わるチャイムが聞こえて僕は目を覚ました。眠っていれば案外時間は早くすぎるものだ。

お昼ご飯は持ってきていなかったし、食べるつもりもなかったので、トイレに行って時間を潰すことにした。

教室で眠ったフリをして過ごすという手もあるが、今の僕は休み時間の少し騒がしくなったクラスが苦手で仕方ない。

そんなことを言われてないとわかっていても自分の悪口を言われて笑われてる気がする。

大して他人に興味がないくせに他人からの攻撃に恐怖を覚えている自分自身に嫌気がさす。

休み時間が終わり午後の授業も眠って過ごしてあっという間に放課後になった。

僕は特に用事もないので早く家に帰ろうと思い準備をしてたら横の席の彼女が話しかけてきた。

「今日1日頑張ってたじゃん。偉いね。」

「偉くなんかないよ。他の人はみんな真面目に授業を受けているっていうのに僕は寝てばっかり。ほんと、先生たちも呆れてるんじゃないのかな。」

「え?でも1日学校にいたじゃん。それだけでめっちゃ偉くない?」

彼女は当たり前のことのように続けた。

「人によってその時に頑張れることは違うじゃん。藍くんは自分ができたことをしっかり見つめてあげたらいいじゃん。」

「でも…」

「自信がないんでしょ。」

「うん…」

「そっかそっかー。どうしようかな…」

彼女は少し考えてから何かを閃いたかのように言った。

「そうだ!私が藍くんのことを褒めてあげる。」

「褒める?」

「うん!そしたら自然と自信もついてきそうじゃない?」

「そういうものなのかな?」

「そういうものなの。よし!今日はもう帰ろう!疲れただろうし。」

「うん」

「またね」

長い一日が終わった。

彼女の言ってくれた言葉がずっと頭の中に残ってる。

「頑張ってるか…」

色々考えることはあるけど今日はもう疲れた。今日はよく眠れそうだ。


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