表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/104

第94章

 俺の視点は最初に白亜の大神殿へと飛んだ。

 天を衝く尖塔と、神々の偉業を描いた巨大なステンドグラスが特徴的な、荘厳な建造物だ。

 その最奥、光が満ちる至聖所の中央。

 巨大な女神像の前に設えられた純白の玉座に、一人の女性が静かに腰を下ろしている。


 彼女こそ、この物語の導き手。

 女神アリエル。

 俺がこの世界に配置した最初の創造物だ。


 彼女の容貌は、神々しいという言葉以外に表現が見つからない。

 床まで届くほどの長い金髪は、まるで溶かした光をそのまま固めたかのように輝き、緩やかな波を描いている。

 肌は磨き上げられた乳白色の磁器のようで、一点の曇りもない。


 そして、その顔立ちは、あらゆる黄金比を完璧に満たした、究極の美の結晶。

 慈愛に満ちた青い瞳は、澄み切った天空の色を宿し、見つめる者すべての罪を赦し、心を浄化するような、無限の優しさを湛えている。

 

 身に纏うのは、金糸で繊細な刺繍が施された、純白のドレス。

 薄いヴェールが彼女の全身を柔らかく包み込み、その神聖さを一層際立たせていた。


 彼女は、俺が創造した「完璧な母性」の象徴だ。

 現実の俺には、ついぞ与えられることのなかった、無条件の愛。

 そのすべてを、十五歳の俺に注ぎ込むためだけに存在する。


 次に、俺の視点は王都の学術地区へと飛ぶ。

 赤レンガ造りの建物が立ち並ぶ一角、その中心に聳えるのが、アルディアス王立魔法学院だ。

 古い羊皮紙の匂いと、微かに鼻を突く魔術薬の香りが混じり合う、静謐な空間。

 その地下に広がる大書庫で、彼女は一人、研究に没頭していた。


 エリーナ・フォルティッシモ。

 俺が創造した、二人目の仲間。


 腰まで届く滑らかな銀髪が、魔導書の解読に集中する彼女の頬にかかっている。

 陽光を弾く白銀ではなく、月光を吸い込んだかのような、静かで知的な銀色だ。尖った耳は、彼女が高貴なエルフの血を引くことを示している。

 

 涼やかな目元に宿る、深い森の湖を思わせる緑色の瞳は、古代ルーン文字で書かれた難解な文献の上を、鋭く、しかし楽しげに滑っていた。

 身体の線を美しく見せる、深い青色のローブ。その胸元には、魔力増幅の機能を持つ銀のブローチが輝いている。


 彼女の役割は、十五歳の俺の魔法の師となり、その才能を最初に見出す、知的な理解者。

 そして、その心には「プログラムされた完璧な恋愛感情」が、今はまだ蕾の状態で埋め込まれている。


 三番目の配置は、王都の下町地区。

 活気はあるが、どこか煤けた匂いのする場所。

 その一角にある、小さな孤児院の庭だ。

 子供たちの屈託のない笑い声が、青空に響き渡っている。

 その中心で、一人の少女が鬼ごっこに興じていた。


 彼女は、ルナ・カーマイン。

 俺が創り上げた、純粋な献身の体現者。


 燃えるような赤い髪をポニーテールに揺らし、頭の上ではぴこぴこと、狼のものと思しき獣耳が楽しげに動いている。

 快活な印象を与える大きな瞳は、好奇心に満ちてキラキラと輝いていた。

 

 その身のこなしは、獣人の血を引くだけあって、驚くほど俊敏でしなやかだ。

 その表情は、一点の曇りもない、無邪気な喜びに満ち溢れていた。

 

 彼女には、「無垢な愛情」をプログラムした。

 打算も、嫉妬も、裏切りも知らない。ただ、仲間だと認めた相手を、無条件で信頼し、愛する。

 

 彼女の存在は、チームのムードメーカーとなり、シリアスになりがちな物語に、温かい光をもたらすだろう。

 特に、孤独な境遇で育った十五歳の俺にとって、彼女のような妹的存在は、何よりの救いとなるはずだ。


 次に俺の視点は、王都の中央広場に面した、一際大きな建物へと移る。

 屈強な戦士や、胡散臭い魔法使いたちが、昼間から酒を酌み交わし、大声で談笑している場所。

 冒険者ギルドだ。


 その受付カウンターで、一人の女性が、にこやかに冒険者の相手をしていた。


「はい、お疲れ様です! ゴブリン討伐のクエストですね」


 彼女の名は、リリア。

 この物語の、最初の入り口となる存在。


 明るい茶色の髪をサイドテールにまとめ、ギルドの制服である白いブラウスと茶色のベストを、きっちりと着こなしている。

 その顔立ちは、女神やエルフのような超然とした美しさではない。

 

 親しみやすく、快活で、誰からも好かれるような、健康的な魅力に満ちていた。

 大きな瞳はいつも優しく細められ、口元には常に人懐っこい笑みが浮かんでいる。

 

 彼女の役割は、この世界が「親しみやすい場所」であることを、十五歳の俺に最初に示すこと。

 右も左もわからず、不安でいっぱいの少年を、温かく迎え入れる案内人だ。


 女神アリエル。

 魔法使いエリーナ。

 盗賊ルナ。

 そして、受付嬢のリリア。


 役者は、揃った。

 舞台も、完璧だ。

 あとは、主役の登場を待つばかり。


 さあ、時空の扉を開こう。

 日本の、あの絶望に満ちた六畳間の部屋と、この希望に満ちた世界を、繋ぐのだ。


 ――待っていろ、十五歳の俺。

 お前のための、最高の物語が、今、始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ