20 黒髪にピンクメッシュの私も純地雷系だわ!
――その次の日、ノワキは学校に来なかった。
「いや、部外者だし当たり前なんだけど」
「もしかしたらもう来ないのかな? だとしたら……」
これでせいせいする――そんな風に笑うエル。
だが、その笑顔はどこか好敵手を失った者に特有の寂しさを湛えていた……などということもなく、普通にめっちゃ喜んでいた。
「やったね優くん、ようやく邪魔者が一人死んだよ! この調子でツツジにも地獄に落ちてもらおう! それでこの教室を私たちの愛の巣にしちゃおうね!」
「エル、二人が来てから急激に口と頭が悪くなってる自覚あるかい?」
自分の彼女が変わり果てていくのを見るのはとても悲しいことである。
「ツツジ、何か知らないか?」
「知らないんだわ。昨日の帰りのHRの後から会ってないし……」
最後に見たのは僕ってことか。
……一応、朝、連絡を入れてみたのだが音信不通。
いつもなら、特段気にすることでもないのだろうが……
僕は、無性に昨日の出来事が気にかかっていた。
昨日、僕はミスをしてしまった。ツツジやノワキと……人間と接触するときに、必ず気を付けていたことを、忘れてしまっていた。
きっと浮かれていたのだ。少しばかり、普通の学生っぽい楽しい時間を過ごせてしまったから――……
――昨日、ノワキは様子がおかしかった。
彼女に熱があるのではないかと思い、額に手を当てるようなことを。
――不用意な接触を行ってしまった。
会話の流れに身を任せるまま、ノワキを抱きとめるようなことを。
――僕の腕のなかで彼女は赤面していた。
最悪の想像が頭の中をぐるぐると廻り埋め尽くす。
あいつは配慮のできるやつだ。あいつは人の心が分かるやつだ。ツツジより、僕なんかより、よっぽどまわりが見えていて、気の利く女だ。
彼女は僕が何を嫌うのか知っている。彼女は何度もそれを確認していた。僕だってそれを聞いたことがある。
もしそうだと言うのなら、彼女はもう僕に会わないようにするのではないか?
ノワキは――……
「なあツツジ、ノワキの家の場所を教えてくれ」
「優くん!?」
「分かったわ! ……あれ、私ノワの家知らないんだわ!?」
「なにお前」
……――ノワキは、僕に惚れてしまったのではないか?
☽
役立たずのツツジを問い質したところ、さざれならばノワキの家の住所を知っているということだった。さざれとは連絡先を交換していたのでLINEで催促したところ……
【あまりおすすめはしませんわよ】
なぜか渋られてしまった。
ムカついたので電凸してみる。2コールで出てくれた。
『どういうことだよ』
『言葉の通りですわよ』
『もしかして僕、信用されてないの?』
『それもありますけれど』
……おすすめはしない。さざれが以前そう言ったときは、何の話をしていたっけ。
『例えば……気になったことはありませんの、リノの髪色』
『何の話だよ。……染めてるんじゃないのか? 本人は地毛だって言ってたけど』
『リノは嘘をついていませんわ。あれは天然ですのよ』
『じゃあ海外の血が入ってるのか? ロシア人とかは銀髪もいるんだっけ?』
『その場合、あれほど綺麗な銀色にはなりませんわよ』
いまいち要領を得ない。何が言いたいんだ。
『御魂には固有の色がありますの。高い魔力の持ち主は、御魂の発色の影響が体毛にまで影響しますの』
……それは……
『……ノワキの銀髪は、自分の魔力の色に染まったものだって言ってるのか?』
『そうでなければ、わたくしの金髪やリノの銀髪を、どう説明しますの?』
『銀はともかく、金髪は別に普通だろ。エルだって……』
『彼女にはコーカソイドの血が流れているでしょう? わたくしもリノも純日本人ですのよ』
『…………』
『ですから……言っているのですわ。おすすめしないと』
だとしても……僕には、ノワキに対する責任がある気がするのだ。
『ローソンの近くまで来た。ここからはどう行けばいい?』
『……まったく』
電話越しに、これ見よがしの大きな溜息が聞こえてくるのだった。




