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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅳ 月夜に浮かぶ影
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sect.13 愚者の舞

ランタベルヌのルゾール。

この男がいなければ、あんな事にならなかったのかなんて、今となっては分からない。

過ぎてしまったことを仮定で論じたところで、そんなことに何の意味もないのも分かってる。

だけど未来のために過去を知ることも重要だと考えるのであれば、これだけは言える。

あの結果はきっと違った形になっていたのだろうと。



エルザーク広場、エルザの中心と名付けられた広場のさらに中心ともいえる場所に、数日前までは存在しなかった巨大なオブジェが鎮座している。

無骨な岩の塊にしか見えないその表面を、時折今にも消えそうな青白い光が走るところから、それがシュカヌたちの追いかけているターゲットであることが判別できた。

これまで様々なものに形を変えてきていたバケモノだったが、脱皮を前にしてか岩のようにピクリとも動かず、それはまるで蝶が羽ばたく前のサナギのようでもあった。

言うなら、死をばらまく邪悪な蝶の。


「おい、キサマらここで何をしている!」

その男はいつ脱皮を始めるかも分からない、バケモノの目の前でそう叫んだ。

切れ長の目をした神経質そうな男ルゾール。

彼は威圧的な態度でバケモノ退治にやってきた一同に接触してくる。


「何者だ、あのバカは?」

「さあ・・・」

ニーガ・ルージは怒りと侮蔑のこもった声でシュカヌに問うが、とうぜん彼にも知る由はない。

その男ルゾールは多くのランタベルヌ兵を引き連れて、こともあろうかエルザーク広場の中心に陣取っていたのだった。


事の深刻さを危ぶんだラガンナ院長が一歩前に進み出る。

「ここは危険じゃ!ランタベルヌの者よ、早く避難するのじゃ」

「ここはランタベルヌ領内だぞ!よそ者が勝手に侵入してきて、何を言っている!」

しかしルゾールは聞く耳を持たない。


「キサマらの方こそ、今すぐ立ち去れ!」

騒ぎを聞きつけたランタベルヌ兵たちがルゾールの背後に集まりだし、バケモノを挟んでルゾールたちランタベルヌ軍とシュカヌ、ラガンナ、ランブーたち混成軍のにらみ合いが起こり、その場の空気は一触即発の緊張感に包まれていった。


「へっへっへ、インチョウあんな奴、ぶん殴って追い払えばいいんだよ!」

「お前は黙っておれ!」

ラガンナはそう言って破戒僧ダブジをたしなめようとするが、巨漢の破戒僧は興奮で顔を紅潮させている。その表情は今にも暴れだしそうで、そうなってしまったらこの状況ではラガンナにもダブジを止めることは容易ではない。


辺りはかがり火と満月による月明りで照らされてはいたが、夜の闇はしだいに色濃くなり、それはいつ脱皮が始まってもおかしくないことを告げていた。

歯車はギシギシと音を立てて狂い始めていく。


「まずいランブー、時間がないぞ・・・」

「ああ」

「準備を始めたほうがいいんじゃないか?」

モールがランブーに耳打ちする。

実際のところ、彼らヌシ狩りの民の道具は少なからず準備に時間を要した。

そのことを考慮してとっていた段取りの時間は、ランタベルヌ兵の出現によって大きく削られている。

いざ戦闘が始まってしまってからでは、準備ができない。

その焦りがヌシ狩りの民たちを追い詰めた。


「おいそこ!何をしている!?」

道具を準備しようと動いたヌシ狩りの民に気付きルゾールが叫ぶと、その声に反応してランタベルヌ兵が一斉に武器を構える。


「くっ・・・、愚かな・・・」

ラガンナが苦渋の表情を浮かべてつぶやく。


「そなた、自分が何をしておるのか理解できておるのか?」

「何を言っている?キサマら、さてはヴェルデの手の者か?これはアイツが得意とする攪乱作戦か?」

その可能性は限りなく低いと思いながらもラガンナが問うと、ルゾールから返ってきた言葉は理解不能なものだった。

「・・・ヴェルデ?何を言うておる」

「とぼけるな、この場所にヤツが現れるという情報を得ている。どうやら事が済むまで、キサマら全員を拘束する必要があるようだな」

「バカな」



「(どうやら、話が通じる相手ではないようだな)」

ラガンナとルゾールの会話を聞いていたニーガ・ルージが、思念波を使ってシュカヌに語り掛ける。

「(だね・・・)」

「(向こうの兵はざっと二百人といったところか、ヌシ狩りの民のサポートは期待できなくなるがしかたない、我輩がやつらを片づけるから、お前はエンゾをやれ)」

「(ちょ、ちょっと待って)」

「(何がちょっと待てだ!もう待てん。そんな時間はもうない)」

「(そうなんだよ!時間はもうないハズなのに、エンゾがまったく動いていない)」

「(なに?)」

シュカヌとニーガ・ルージは広場の中心にたたずむ巨大な塊を仰ぎ見る。

かがり火に照らされたその巨体を、上空からは月明かりがやさしく包み込んでいる。


だが何かが違う、何かがさっきまでと違うという違和感を覚えた。

「(なんだ?何かがおかしい)」

「(うむ)」

そしてその時になって、ようやく気づく。

"光"がないと。

つまりは"中身"がないと。


「(!!?)」

シュカヌとニーガ・ルージに全身から汗が噴き出るような戦慄がはしる。


「下だぁー!!!!」

「えっ?」

シュカヌが大きな叫び声をあげるのと同時だった。

地面から三本の巨大な触手が一斉に伸びて、その場にいた者たちを無差別に襲い始めるのだった・・・。

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