sect.12 討伐開始
あの時の事はよく覚えているっていうか、覚えていないっていうのか、部分部分の強烈なイメージは鮮明に残ってはいるんだけど、細部のディテールがぼやけている。
それほどに現場は混乱していたし、何よりもあたしが十分理解できていなかったんだと思う。
いったい何が、その時起こっていたのかということを。
それでももう一度、頭の中を整理しながら思い出してみると、まず最初に動きだしたのは、あたしたちの方だった・・・。
「いいかい?それじゃ、もう一度説明するよ」
「もういいよ、オババ。これでもう何度目だよ!」
エルザへと向かう船の中で、この日何度目になるのか分からないシャンネラの説明に苛立たしくニトが反応する。彼女にしてみれば、その地への到着を目の前にして最後の確認としての説明だったのだろうが、あまりにものクドさに他の者は正直なところ辟易していた。
シャンネラはそんな孫の態度に一瞬ムッとした表情をのぞかせたが、直後に船員が発した"目的地に到着した"という言葉に意識をそがれる。
そこはエルザの町の中心地から離れた公園のような広場で、船の中から下を見下ろしてみると夕暮れのオレンジに夜の深い藍色が覆いかぶさるように混じりあって、エルザの町が紫色に染まって見えた。
そんな中、注意深く視線を巡らせるとキトトブの者やヌシ狩りの民は、すでに広場の端の方に集合しているようで、シャンネラは船を広場に着けさせると、他の皆と合流するするために船を降りた。
「ラガンナ院長はと・・・、うっ」
ユマは先に到着しているラガンナ院長の姿を探していたが、巨漢の破戒僧と共にいるのを見つけて尻込みしてしまう。
いかんせん初対面の時のイメージが悪すぎて、ユマはどうしてもこのダブジという男に馴染むことができなかった。というか生理的に受けつけなかったのだ。
「大丈夫、僕がついている。行こう」
そんなユマの気持ちを察してかシュカヌがそう言ってくれたので、ユマはその後ろ姿についていく。
遠くからでは気付かなかったが、その場にはラガンナと破戒僧ダブジの他にもランブーやヌシ狩りの民の作戦実行部隊(今回彼らの半数は、ユマたちと同じく救護班や輸送班などに振り分けられていた)も集まっていて、シャンネラとシュカヌの到着で主要メンバーがこれで全員揃ったことになる。
「状況の方はどうなってるんだい?」
シャンネラは合流するなりラガンナにたずねる。
くどい物言いで船内のメンバーに疎まれたのを気にしてか、シャンネラがやけに簡潔に話すのを見てユマは少し顔がほころんでしまう。
「大丈夫じゃ、報告を受けていていた通り変化はない。あの場所から動いてはおらんようじゃ」
「それじゃあ作戦通りに進めるかね」
シャンネラの言葉にシュカヌ、ラガンナ、ランブーがうなずく。
巨漢のダブジはというと、そんな場の空気が息苦しそうに"そんな事はいいから、早く行って大暴れしようぜ"と言って、ラガンナに"お前は黙っておれ!"と叱られている。
「脱皮は日が暮れたら、すぐに始まると思ってよい。時間をかければそれだけ成功率は下がる。そなたらのサポートが頼みの綱だ、しっかり頼むぞ」
いつの間にか遅れて現れたニーガ・ルージが偉そうな態度で言うが、今回の作戦の立案には"彼?"が深く関わっているので、それに対して違和感を覚える者は誰もいない。
「そういうことだ、それじゃあ行くかね!」
そう言ったシャンネラの言葉が合図だった。
それぞれが自分の役割のために、それぞれの持ち場へ向かうために散らばっていく。
シャンネラは傍らで寄り添うように立っている少女に向き合った。
「さて・・・、それじゃあユマ」
「うん。気を付けてね」
「いいかい、アンタは何があっても絶対に近づくんじゃないよ。・・・もしもの時はアンタだけでも逃げるんだ。その時は、ニト分かってるね?」
「うん。僕が必ずユマを、ツグナイの民のキャンプに送り届けるよ」
「そうだ、それでいい」
「大丈夫だよ、シャンネラさん。あたしだって日が浅くともシャンネラ盗賊団の一員なんだから、親分の言いつけは守るよ!」
「・・・そ、そうだよ。それが分かってるなら、ワタシは何も言うことはない。それじゃ、後は頼んだよ」
シャンネラは一瞬言葉を詰まらせながら、まるで最期の別れの挨拶でもするかのように言った。
間もなくシャンネラは、自らが運転するスカイモービルの後ろにシュカヌとニーガ・ルージを乗せて、目的地へと飛び立っていく。
その後エンゾというバケモノを退治するために向かった皆を出迎えたのは、予想外の人物だった。
「おい、キサマらここで何をしている!」
ランタベルヌのルゾール。
この男によって、皆の作戦はめちゃくちゃにされることになる・・・。




