sect.3 再会
「ラガンナいんちょ~、ただいま戻りました」
「おお、ユマ殿」
手を振りながらハザサ院の裏門へ続く山道を駆け上ってくるユマの姿を見つけ、ラガンナの顔がほころぶ。ラガンナは先刻、シャンネラたちが戻ってくるとの知らせを受けて、出迎えのため門の前で待っていたのだった。
ユマは満面の笑みで階段を駆け上ってきた。
「よかった。今回もまたコワい僧兵のオジサンたちに囲まれたらどうしようって思ってたけど、今日は院長が迎えに来てくれていて」
「ほっほっほ、もうユマ殿たちを疑う必要はないのだから、そんな心配は無用じゃよ」
「そっかぁ」
息を切らしながらそう言ったユマに、ラガンナが笑みを向ける。
「ヌシ狩りの民への説得はうまくいったそうですな」
「うん、もう大成功!」
それを聞いたラガンナの目に、ユマの後ろからシャンネラやヌシ狩りの民の一団がやってくるのが映る。狼犬にまたがったヌシ狩りの民の一団には、懐かしい顔ぶれも並んでいた。
「ご無沙汰しております、ラガンナ院長」
「おお!モールか、久しいな。お前がここにくるのは何年振りだったか・・・」
「もうかれこれ、十二年ぶりくらいになるかと」
「もう、そんなになるか」
「はい・・・」
「月日のたつのは早いものじゃ」
「まったくです」
二人は感慨深げに過ぎ去った月日を思い浮かべて談笑していたが、やがてラガンナの視線がモールの頭に向かう。
「それにしても・・・」
「はい?」
「いつ見ても、暑苦しい頭じゃの。いま剃髪の準備をさせるから、ちょっと待っておれ」
「なっ、ちょっとそれは勘弁してくださいよ・・・」
笑顔のラガンナだったが、その目が笑っていないことに気づき、モールが後ずさる。
「そうか?まあ明日の朝、目が覚めてその頭が健在だとは思わんことだな。ほっほっほ」
「帰る!俺は帰るぞ!」
ラガンナとモールの掛け合いに、ヌシ狩りの民の間から笑いがおこる。
「心配するな、年寄りの小粋な冗談じゃ」
「冗談じゃないでしょう!?思い出しましたよ!十二年前の最後のあの日、目が覚めたらボウズ頭になってた俺は、二度とここには戻るまいと泣きながら下山したんですから」
「ちっ、覚えておったか」
「(コワい、ラガンナ院長マジで恐るべしっ!)」
チクリは笑顔のラガンナを見つめ、そっとつぶやいた。
「久しぶりだな、ランブー」
ラガンナはバツが悪そうな表情で人影に隠れているランブーに近づいて声をかけた。
「・・・どうも、院長」
「何をそんなに警戒しておる?」
「いや、だって長になったのにイロイロと・・・」
ラガンナはランブーの言葉をさえぎって続ける。
「心配せずともお前はよくやっているよ」
今までの自分が出した決断の数々は非難されずとも賛同はされないだろうと思っていたのに、返ってきたラガンナの言葉はランブーにとって意外なものだった。
「そうかな?」
「それは他の者の顔を見ればよくわかる。皆いい顔で笑っておる、お前がしっかりやっておる証拠だ」
「・・・そう言われると、照れるけど」
「まったく、あの手の付けようがなかった悪ガキのランブーが、よくぞこれほどまでに成長したものだ。そっちのほうが驚きだよ」
「結局持ち上げて落とすのかよ」
「お前はおだてすぎると、すぐ調子に乗るからな」
「チェッ」
「とは言え、よく頑張ったな。ランブー」
「・・・うん」
「(ラガンナ院長、チョーいいヤツじゃんっ!)」
・・・チクリのつぶやきである。
「ラガンナ院長、また世話になるよ」
「おお!シャンネラ殿、ご無事でなによりです。ヌシ狩りは大変だったそうですね」
「まったく骨が折れたよ・・・」
「しかし流石ですな、あのレヴナを本当に討ち取るとは・・・」
武勇で知られたキトトブの院長ラガンナだが、それでも思わず唸ってしまう。
「なんだい無理だと思っててワタシらを送り出したのかい?」
「いやいや、まさかシャンネラ殿たちまでがレヴナ狩りに加わるのは想定外だったので」
「ああ、そうだった。イロイロと成り行きでそうなったんだった」
「まあ古き友がいらしたので、心配はないだろうとも思っていましたが」
「シュカヌかい?確かにアイツはすごいね。まったくいつも驚かされっぱなしだよ」
「ふむふむ。我々にも過去の記録として彼の情報はありますが、それもおとぎ話というか伝説のようなものでしかなかったので、こうして実際に会うまでは半信半疑な部分もあったのは事実なのですが」
「そりゃそうだろ、なんたって二百年前の話なんだから。そんな過去の見たこともないものを信じろってほうが無理ってモンだ」
「そう言ってもらえれば、助かります・・・」
「ねえオババ、いつまで話してるのさ。皆どうしていいのか困ってるよ・・・」
ニトがシャンネラとラガンナのもとにやってきてそう告げるので周囲を見渡すと、その場に座り込む者や疲れた顔で立ちつくす者が目についた。
「おっと、これは私としたことが・・・」
ラガンナは慌てて到着した一団に向き直って伝える。
「さあさあ、皆さん立ち話もあれですし中へどうぞ。昼食の準備もできていますから、食事でもとりながら話の続きを」
「えっ!?ゴハン?」
「だからチクリは食い物に反応しすぎなんだよ」
「ゴメン・・・」
モールに叱られてシュンとするチクリに、ラガンナも笑いを禁じ得ない。
「まあそう言うなモール。その気持ちが、それだけ日々の糧への感謝につながるというもの」
「そんなもんですかね?コイツの場合、いつも腹空かしてるだけだと思いますけど」
「ウルサイ!モジャモジャ」
「さあさ、もうケンカはそれくらいにして、どうぞこちらへ・・・」
嵐の前の静けさというか、穏やかな日常。
刻一刻と迫る決戦の時にむけて、皆不安な気持ちを抑え込んでいたね。
このあと数日後に起こることとなる激闘、あたしたちの誰一人として気のゆるみなどなかった。
だけど気持ちや想いだけではどうにもならないほどの困難にぶつかることになろうとは、この時は知る由もなかったのです・・・。




