sect.4 作戦会議1
カチャカチャ・・・
古びた長テーブルが所狭しと並べられた大広間で一同は食事をとっていた。
「それにしても広い部屋だね・・・」
「世界中からキトトブの人が集まった時でも、対応できるための部屋なんだろうね」
食事を終えたユマの何気ない一言に、彼女の隣に座っていたニトが答える。
「そっかぁ、何かあった時にはここハザサ院に皆が集まるんだね」
「うん、ここが総本山だから」
「だったら、ここで皆がアチョーって修行したりもするのかな?」
「(あ、あちょーって・・・)でもまあ、武闘派で知られるキトトブだから、ここで武術の鍛錬とかも行われているかもしれないね。この長テーブルもあっちの方とこっちではそれぞれ大きさが微妙に違うところをみると、もとからこの部屋にあったものじゃなくて他の部屋から集めて持ってきたようだし、この大広間は何をする部屋って決められたものじゃなく、その時の用途でいろいろな使い方をされてるみたいな感じに見えるから」
「ニトってすごいね!」
「えっ、なにが!?」
突然そう言いながら顔を寄せてきたユマに、ニトはドキッとしてたずねる。
「ちょっと見ただけで、そんな事がわかっちゃうなんて!」
「い、いや・・・、分かるわけじゃないよ。ただそれは現状を観察しての仮説であって・・・、だけどその仮説の積み重ねで・・・、本質を捉えていくっていうか・・・」
ニトは早まる心臓の鼓動をとめられない。
「あたしなんかは、料理の中の野菜がちょっと虫喰ってたから、さりげなく横に寄せとこうとか、この煮つけの味付けはどうやってるんだろうとか、男くさい世界のわりに食器のセンスは意外にいいんだねとかいう事しか気付かなかったよ」
それは気付きというより感想だろうという気もするが、ニトの思考回路はショート寸前でそこまで頭が回らない。
だが会話に間が空くとユマから変に勘ぐられてしまうかもしれない、急いで何か言わなければ!
そして一言。
「・・・素敵です。オネエサン」
「ん?」
「で、どうだいラガンナ院長。例のエンゾとかいうバケモノの情報は入ってきてるのかい?」
「はい、恐らくは間違いないだろうという報告が」
シャンネラの問いかけに答えたラガンナに、その場にいる全員の視線が集まる。
「先日より、なにか得体のしれないものに襲われ、壊滅した集落が五つほどあります・・・」
たしかに確認ができていないなら確証はないのだが、この時期にその場所で得体のしれない襲撃者と言えば疑いようはないだろう。
「ハーデルマークからは近いのかい?」
「報告をまとめると、日を追って離れつつあるというのが我々の見解です」
「やはり足止めはできないか」
「無理だな、そんなことができるなら最初から苦労はない」
シャンネラとラガンナの会話に、魚を頬張っていたニーガ・ルージが口をはさむ。
「まあ、そうだろうね。で、どっちに向かって逃げてるんだい?」
逃げるという表現もなんだかおかしいと思ったが、適当な言葉が見当たらなかったのでまあ構わないだろうとシャンネラは押し通した。
「どうやらハーデルマークから南西の方角に向かって移動しているようなのですが」
「南西か・・・。ちょっと待てよ、その方角は!?」
「そうです、ヤツの狙いは恐らく"商人の町エルザ"と・・・」
「チッ、厄介なことになりそうだね」
「ねえニト、なにが厄介なの?」
こそっとたずねるユマ。
なんだかユマが会話に付いていけなくなった時の解説者的ポジションが定着しつつあるなと思いながらも、ニトはまんざらでもない様子で答えていく。
「ランタベルヌ領エルザ。その町は商人の町って呼ばれているけど、そこでは食料から機械部品まで何でも揃う流通拠点の町なんだ」
「ふーん、要はお店がいっぱいある町ね。でも、なんでそれが厄介なの?」
「連日商人から一般の客まで、あちらこちらから集まった人でごった返す繁華街。つまり捕食を狙うバケモノからすれば最高の餌場になるだろけど、そんなところでパニックが起きれば被害は相当なものになるでしょ?しかも流通が途切れてしまえば近隣地域に与える影響は計り知れないんだ」
ユマの頭からはすでに煙が出始めていたが、ユマなりに必死でひとつひとつを整理して考える。
「そこで食べるものを買っていた人たちは、食料を買えなくなって飢え死にしちゃうってこと?」
「まあそれもひとつの例としてだけど、そういうこと・・・かな?」
「ひっどーい!それは何とかしなきゃ!」
「う、うん」
「じゃあ早速エルザに向かって出発という事か」
「いえ、違います。」
「なに?」
シャンネラのいよいよ引くに引けないところまで来てしまったなという思いがのった言葉を、ラガンナが苦渋の表情を浮かべながら止めた。
「残念ですが、これから起こるであろうエルザの惨劇は、現状では止めることはできません。もちろんキトトブとしても注意喚起の警告は出しますが、あそこはランタベルヌ領であるゆえキトトブの介入をよく思わない輩も多くいますので・・・」
「人の庭で勝手なことをするな・・・か。自分の利権を守ることに腐心する人間ほど、火が上がれば他の者を見殺しにして我先にと逃げるくせにね」
思い当たる節があるのだろう、全員が黙ってシャンネラの言葉を聞いていた。
「とはいえ限られた時間は一刻も無駄にはできません。次の満月まではあと十日。その間エンゾの捜索と監視は、キトトブの者で必ずやなんとかします。そこで皆さんには、これからの七日間を特訓に費やしてもらいたいのです」
「特訓?」
「まずはしっかり作戦を練ったうえで役割分担を明確にする。次にシャンネラ殿たちにヌシ狩りの民そして我々キトトブの者、それぞれの力のベクトルを合わせて最大限のコンビネーションを実現させなければアレは倒せません」
「まあそりゃそうだろうけどさ、具体的にどうする気だい?」
「ブブガナ山脈地方にある修験者たちの里をご存知かな?」
「聞いたことがないね・・・」
「そこって、ヌシ神の山?」
誰もが知らないという様子で顔を見合わせる中、ランブーがポツリと答えた。




